優雅でシンプルな暮らし

あふれる物が暮らしを壊しつつある今の時代。でも、いたってシンプルに解決できるとサティシュ・クマールは言います。

翻訳:浅野 綾子

新しい本を書きました。「Elegant Simplicity (仮題:シンプルに暮らす。優雅に暮らす。)」という題です。この本を書いたのは、シンプルに暮らすことで現代が抱える問題のほとんどを解決できるからです。シンプルに暮らすことは、持続可能性、精神性、そして社会の調和に不可欠なのです。

 持続可能性の問題からはじめましょう。大量消費をすることで、家も生活も職場も物であふれかえります。洋服ダンスには着ない洋服が詰まっています。靴にジャンパーにジャケット、次から次へと出てきます。キッチンの食器棚には、いつか使うかもしれないとしまってあるほとんど出番のない食器が並んでいます。でも、いつかの日が来ることは滅多にありません。机の上も同じこと。日ごとに紙やファイルや本が山積みになり、机の上に散らかります。物を買ってはためこむことが日常になってしまいました。屋根裏を、寝室を、地下室を見てください。どこもかしこも物また物です

 こうした物はすべて、その原料を地球上のどこからか、自然界のどこからか採ってこなくてはなりません。大量搾取、大量生産、大量販売に大量消費は、大量のごみと大規模な汚染をもたらしています。持続可能性について真剣に考えるなら、不要な物を買う習慣を家でも職場でも改めなければなりません。そして少ない物で上手に暮らす技術を学ばなければなりません。

 この地球上の70億人の人たちが、私たち欧米人のように物を買い、使い、さらには捨て、そして自然を汚すとしたら、地球が3つあっても足りないかもしれません。でも、地球は3つもありません。1つしかないのです。ですから、シンプルに生活し、地球に与える影響を小さくすることが、持続可能性における喫緊の課題なのです。

 買い集める物の多くは、中国かバングラデシュで安く作られています。こうした物は安いだけでなく、見た目が悪いとまで言えなくても美しくないことがほとんどです。買うとすぐに飽きてしまう。それで捨てることになるので、複数あるごみ埋立地も満杯になってしまうのです。シンプルな生活は、優雅で美しくなければなりません。何を持つにしても、美しく、実用的で、長持ちするという3拍子が揃わなければなりません。私はこれを、優雅でシンプルな暮らしの「BUD (beautiful, useful and durable)」原則と呼んでいます。シェーカー教徒はこの原則のすばらしいお手本です。母はよく言いました。「物は少ない方がいい。でも、持つなら美しいものにしなさい。そうすれば大切にするし、使うにしても着るにしても気分の良いものだから」。この伝統的な知恵はあたりまえの感覚ですが、悲しいことにこのあたりまえの感覚は、もはやあたりまえではなくなってしまいました。ですから、このことについて本を書かなくてはならないのです。

 シンプルな暮らしは精神性を高く保つにも不可欠です。心の健康には、自分自身に寄り添う時間が必要です。そうした時間があれば、瞑想をしたり、ヨガや太極拳をしたり、精神性を向上させる詩や本を読んだりして、心の安らぎを得られるのです。便利な機器や財産となるものを手に入れようとすれば、お金を稼ぐのに一生懸命働かなくてはなりません。お金ができたら、あちらこちらと時間をかけて見て回り買い物をしなければならない。買ってしまえば、買ってきたものを手間ひまかけて手入れしなければならない。そうなると、自分のための時間がないと不満が口をついて出るようになるのです。心の健康を保つための時間、詩を読んだり書いたりして想像の世界に浸る時間、絵を描いたりガーデニングをする時間、音楽や散歩をする時間がないと。散らかった家に住めば心の中も散らかります。シンプルに暮らせばお金があまりいらなくなり、それほど働かなくてもよくなります。自分の時間をつらい仕事、退屈な日々の仕事でがんじがらめにしなくてよくなるのです。そうなれば、心を満たすことに時間をかけられるようになります。芸術的な活動や想像の翼を広げることができるようになります。そうなればこそ、友人や大切な人たちと共に過ごす時間も場所もつくれるようになるのです。これは美しきパラドックス。物を少なくすることで、これ以上ない心の充足感が得られるのです。

 シンプルに暮らすことは社会正義にも不可欠です。少ない人たちが物を持ち過ぎれば、他の人たちの分が足りません。ですから私たちはシンプルに暮らす必要があり、そうすれば他の人たちもシンプルに暮らすことができるのです。買い集める不要品にはぜいたく品と言われるものもあります。家を2軒も3軒も、車を2台も3台も、パソコンも2台も3台も。つまり、すべてにおいて「もっと、もっと」なのです。さらに高価なものを欲しがる人たちもいます。プライベートヨット、プライベートジェット等々。こうした不平等は正義に反し、嫉妬や社会的軋轢を生み出します。こうした高価なものを持っている人を2、3人知っていますが、その人たちがとても幸せかというと、はるかに質素に暮らしている人たちと変わりません。幸せは物を持つことではありません。幸せは心が満たされることなのです。足るを知れば、いつも「これで十分」です。逆に、足るを知ることを知らないと、どれほど多くの物を持っても、十分にはならないのです。

 私がシンプルな暮らしと言うのは、貧しい暮らしのことではありません。修行僧のような暮らしでも、苦しみに耐える暮らしでもありません。私も快適な暮らしが大切だと思っています。美しいものに心惹かれますし、アートや手作りの工芸品が好きです。満ち足りた暮らしが大切だとも思います。愉快なことが好きなので、楽しいイベントには足を運びたくなります。ですから、「シンプルな暮らし」に「優雅で」と付け足したのです。シンプルな暮らしは優雅です。優雅でなければなりません。すべての人には快適で楽しい暮らしが必要で、皆がそうした暮らしをすべきです。でも今の時代、私たちの生活は複雑になり、もはや快適ではありません。便利さを追うあまり、私たちは快適さを犠牲にしつつあります。便利さの追求が、私たちに道を誤らせています。富に恵まれたなら自分だけのためと言わず、みんなのために使えば良いではありませんか。この地球と地球上のすべての人々のために。

 シンプルに暮らすには、よく考えること、よく理解すること、そして身体も心も今この瞬間を生きることが必要です。E.F.シューマッハーは、どのような愚か者でも物事を複雑にすることができるが、物事をシンプルにするのは天才にしかできないと言いました。誰の心にも生まれたときから天才が住んでいます。私たちがしなければならないことはただ1つ。心を澄まして自分の中にいる天才を見つけ、暮らしを十二分に楽しみ、シンプルに暮らすことです。

サティシュ・クマールの「Elegant Simplicity」は2019年春、ニューソサイエティパブリッシャーズ (New Society Publishers) から出版される。サティシュ・クマールによる「Elegant Simplicity」の出版講演は、2019年5月23日午後6時30分からロンドンにあるオクトーバー・ギャラリー (October Gallery, 24 Old Gloucester St, Bloomsbury, London WC1N 3AL) にて行われる予定。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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