パン作りは酵母におまかせ

文:サティシュ・クマール

翻訳:浅野 綾子

フランス南西部のナロック農場をおとずれたサティシュ。アンディー・ケイトーが革新的な栽培方法で小麦の古代品種を栽培・収穫する姿に感動します。この記事では、そのミュージシャンファーマーのアンディーが美味しいパンのレシピを教えてくれます。

イーストではなくルヴァン種 [自然界に存在する野生酵母を培養したパン種] を使ってパン作りをすると、でき上がりが全然違います。本当に消化の良い、小麦の香りを最大限に活かしたパンを作るには、この方法が唯一の方法なのです。ルヴァン種(発酵種)をめぐっては込み入った話が山ほどありますが、ここで使用するルヴァン種のタイプは同量の小麦粉と水を混ぜるだけです。

 ここでは1kgのパン2個(成型と切り込みを入れるパンが2個作れます)の作り方をご紹介しましょう。

1. 水200gと、石臼で挽いたT80の小麦粉(強力粉またはグルテン含有量の多いパン用小麦粉)と全粒粉を半々で混ぜたもの200gを混ぜあわせます [T80のTは小麦粉の種類という意味。T横の数字は小麦のミネラル量の違いを表す]。2、3日、室温に置きます。それから、半分の量を捨て、粉と水を混ぜたもの同量を代わりに足します。

2.半分の量を捨て、代わりに粉と水を混ぜたもの同量を足すこの作業を10日間くらい毎日続け、ルヴァン種を安定させます。パン作りに使いたい時は、パン生地に混ぜる前、通常約4~6時間前に、半分の量を捨てて残りのものに粉と水[混ぜ合わせたもの]を足します。(2、3日使わないという時は、冷蔵庫で保存します)。

3.25℃(ぬるめ)の水を770g用意して、ルヴァン種11.5gを加えます(これは印刷ミスではありません。通常のレシピで目にする量よりとても少ない量ですが、これにより長時間かけてゆっくり発酵する、消化に大変良いパンを作ることができます)。

4.T80タイプの古代小麦の粉1,010gを加えます。ジョン・レッツ (John Letts) のLammas Fayre flourのような小麦粉、または地元産の石臼で挽いた新鮮な小麦粉(できる限り新鮮なものが望ましい)を加えましょう[ジョン・レッツは、イギリスの古代小麦の農家、古代小麦をつかった小麦粉生産者、パン職人、麦わら屋根ふき指導者、植物考古学者。Lammas Fayre flourはジョン・レッツが生産する古代小麦粉ブランド]。

5. ライ麦粉55g、ヒトツブコムギ粉 (small spelt) 36g、全粒粉36g(ここでも、できれば石臼で挽いた古代小麦の種類を使いましょう。なければ、手に入る一番良いものを使ってください)を加えます。ライ麦粉、ヒトツブコムギ粉、または全粒粉が見つからなければ、お使いのT80タイプの小麦粉を同量加えましょう。パンの香りや食感は、この小麦の種類がすべてそろった方が格段に良くなります。

6. 小麦粉と水を手で混ぜ合わせ、混ざったら手を止めます。

7. 塩27gとさらに水57gを加えます。

8. 塩がなじむまで、さらに手で混ぜます。必要以上に混ぜないようにしましょう。ねらいは、パン生地にはできる限り触れないで、ルヴァン種に働いてもらうことです。

9. パン生地を布などで包み、涼しい場所に置きます。できるだけ18℃に近い場所を見つけましょう。

10. 1時間ほど置いたら生地をこねます。インターネットを見るとパン生地のこね方の動画がたくさん投稿されています。生地をこねる目的は生地を伸ばして強くすると同時に、温かいまたは冷えた部分をしっかりと均一にならすことです。

11. 約1時間後、再びこねます。時間の余裕を見ながら、1~2時間置きに3~5回こねてもよいでしょう。さらにこねればパン生地にもう少しコシを出したり、発酵の均一具合に若干の差を出すことができるでしょう。さらにこねることができなくても、美味しいパンになることには間違いありません。

12. 生地を寝かせます。15~18時間後、発酵させるための置き場所がいつもより温かいのか冷えるのか、また、パンにどの程度のコクを出したいのかによって最後にもう1度やさしくこね、調理台の上に生地をあけます。手に粉をまぶし、または生地がくっつきやすければ手を水でぬらして、生地を1kgのパン生地2個に切り分けます。

13. パンを好みの形に成型します。1つは粉をふったザル(または粉をまぶした布きんを中にひいたボウル)にブール(丸いパン生地)をつくり、もう1つはブリキのパン型を使うことがおすすめです。ブリキ型を使ったパン生地なら、成型が上手くいかなくても確実にパンの形に焼き上がりますよ。

14. ブールの成形のしかたや、ブリキ型で焼くパンの成形のしかたについても、インターネットに動画がたくさんあります。必ず、できる限り軽いタッチで生地をあつかう動画を見つけてください。ガス抜きのために生地をたたく成形技術があります。このレシピではガス抜きは不要です。発酵によって出てきたガスには、閉じ込めておきたい香りがつまっています。ですから、できる限りやさしく生地を扱ってください。

15. パンが成形できたら冷蔵庫に入れます。発酵が止まる温度になるまで、生地の発酵は少しの間続きます。3~4時間経てば焼く準備完了です。お好みで、これよりも長く冷蔵庫に置くこともできます。一晩置いても大丈夫です。生地を冷やすことで、ザルから取り出して切り込みを入れるのがずっと簡単になります。

 オーブンを最高温度まであたためます。少なくとも250℃は欲しいところです。ザルにいれたパン生地には、キャセロール皿を使いましょう。キャセロール皿をオーブンに入れて余熱します。オーブンがあたたまったら、やけどしないように注意しながらキャセロール皿を取り出します。キャセロール皿は本当に熱くなるんですよ!ザルの中のパン生地をキャセロール皿にあけ、ご自分なりの方法で好みの形に切り込みを入れてください。フタをして、できる限りはやくオーブンに戻します。フタをして25分焼き、それからフタを外してオーブンの温度を約240℃に下げ、さらに20分焼きます。

 パン皮のつやを最大限に引き出したいなら、ブリキ型に入れたパン生地もキャセロール皿にのせて焼いても良いでしょう。パン皮のつやにそこまでこだわらないなら、キャセロール皿のパン生地を焼くときに、一緒にオーブンに入れて焼いてしまいましょう。

 ブリキ型のパン生地は、キャセロール皿の生地よりも焼くのにおそらく時間が多めに、1時間くらいかかると思います。25分経ったらオーブンの温度を240℃に下げましょう。温度計をお持ちなら、生地の真ん中に挿して97℃になれば焼き上がりです。

さあ召し上がれ。

アンディー・ケイトーはミュージシャン、農家、古代小麦推進家。therealfoodfight.uk/

定期購読はこちら

Article - Letting the Levain do the Work • Satish Kumar

Satish shares Andy Cato's recipe for 'slow' bread

312: Jan/Feb 2019


リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

0コメント

  • 1000 / 1000