気候の変化に対応した植樹

シャーロット・スターランドは、非営利団体キュー・ガーデンの樹木収集責任者ケビン・マーティンに話を聞き、変化する気候に対応するための植樹について尋ねた。

翻訳・校正:沓名 輝政

私たちは植林を持続可能なものにする方法についてよく話しますが、数年後の世界をモデル化することもその一環です。森林破壊地域に植林するNGOから、野生の場所に植林する反骨の菜園家(rebel gardeners)まで、誰もが生き残る樹木を植えたいと願っています。

 多くの植林プログラム(多くの場合、政府から潤沢な資金援助を受けている)では、どこに何を植えるかを正確に決定するために気候モデリングを考慮します。この類の意思決定を先導していることで有名な組織がキュー・ガーデンです。

 サセックス州ウェークハーストにあるこの慈善団体のミレニアム・シード・バンクには、世界中から集められた24億以上の種子が保管されています。種子は乾燥または冷凍で保管され、絶滅の危機に瀕している種から、脆弱な気候から得られた種まで、さまざまな種類があります。多くの植物は食用や、人間に何らかの利益をもたらすもので、科学者チームはこれらの種子を研究に利用しています。

 世界中から採取されたサンプルを知ることは、どの樹木がどこで生き残るかを理解するための鍵であり、現在わかっていることは、生き残る可能性を最大化することは、種の多様性を最大化することでもあるということ。このことを念頭に置いて、私はキュー・ガーデンの樹木収集と栽培の責任者であるケビン・マーティンと対談し、キューが多様性と未来のためにどのように植樹を行っているかを探りました。

キューではどのように樹木の手入れをしているのですか?

私たちは全体的なアプローチを用いる傾向があります。樹木を全体として管理するのです。適切な土壌を用意し、できるだけ良い状態にする必要があります。キューは砂と砂利が多いので、土壌はあまりよくありません。私たちは、マルチを用いたり土をほぐしたりするなどの土壌改良に多くの時間を費やしていますが、この事実はいつも見落とされています。

キューは英国の他の主要な植物園とも関係があるのですか?

私たちはウェイクハーストという田園地帯の植物園を所有していますが、英国の他の植物園は私たちのためにかなり多くのエコロジー活動を行ってくれています。それに、私は英国のすべての植物園の収集ネットワークのメンバーでもあります。私たちが収集を計画している地域について話し合い、全員が同じ地域にいることを確認します。そうすれば、英国内のすべての植物収集に遺伝物質を確実に行き渡らせることができます。私たちはさまざまな植物学的研究機関と協力し、お互いに資料を共有しています。繁栄するためには、私たち全員がより協力的に働く必要があります。そういった方向性で活動しています。

キューは、英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)が実施しているような、他の既存の植樹プログラムとも連携しているのですか?

私はDEFRAに助言してきましたので、はい、私たちも科学者たちも関与しています。GIS(地理情報システム)の科学者たちは、種の選択とモデリングに着手しているので、かなり重要な協力関係になっています。私たちができる最善のアドバイスを提供するために、特に、例えば、二酸化炭素排出量を相殺したいと考えている大企業に対しては、植える樹種の選択が重要だと説明しています。ただ地面に植えればいいというわけにはいきません。樹木が生き残らなければ、素晴らしい結果になりません。

 樹木は成熟する必要があり、適切に育てられて初めて炭素を捕捉できます。私たちは植物学以外の分野でもその理解を促しています。私たちは土壌をどのように見ているのか、土壌が樹木にどのような影響を与えるのか、またどの樹種がどのような場所で育ち、成長するのかを説明しています。

植えた樹木が生き残るように、どのような工夫をしているのですか?

私たちは樹種の選定に慎重に取り組んでいます。英国の遺産オーク(Heritage Oak)とトネリコはともに減少傾向にあります。病気や害虫、病原菌は環境ストレスによって誘発されることがわかっているので、私たちはイランやアゼルバイジャンなど広範囲に分布するカエデやシデのような樹種に注目しています。英国遺産の景観を保護するため、これらの樹木に適した気候のマッピングを試みています。また、南フランスからオークを集めることも検討しています。イングランド南東部の樹種を保護するためには、異なる気候帯から同じ樹種を採取する必要があります。

 ヨーロッパブナ[学名:Fagus sylvatica]は脅威にさらされており、本当に苦しんでいます。今後10年から15年の間に、多くのブナの成木が失われるでしょう。私たちは、例えばクリミアやコーカサスの乾燥した地域など、この種が生育している他の場所を調べる必要があります。私たちはすでに、乾燥した地域から種子を入手し、ここで栽培して、より良い適応が可能かどうかテストしようとしています。オリエントブナ[学名:Fagus orientalis]はコーカサス地方の乾燥した地域や標高の低い場所に生育してます。ヨーロッパブナはもう少し高いところに生育していますが、両方の樹木が一緒に生育している中間地帯があります。その地域から種子を採取し、ヨーロッパブナの生育域の端に生育していることが分かっている地域から種子を採取します。願わくば、イングランド南東に持ち帰り、より乾燥に耐性があればと思います。

一般的な種は法的規制が少ないのですか?

それでも許可を得なければなりませんが、むしろイギリスの景観を保護するためです。私は希少種や興味深い樹種を植えるのが好きですが、そればかりでは伝統的な景観を失ってしまいます。もしナショナルトラストが所有地のヨーロッパブナやイングリッシュオークをすべて失ったら、ケイパビリティ・ブラウンが設計した庭園はすべて失われてしまうでしょう。

英国には世界のオークの木のたくさんあるのですか?

ヨーロッパの多くの樹木があるのは確かです。それらの樹木を保護する必要があります。分類学上も名前もイングリッシュオークでなければなりません。歴史家によれば、イングリッシュオークの多くはイタリアから来たものとのこと。ニレも同様。ローマ人が移動し始めたとき、多くの樹木がここに持ち込まれました。

英国は一般的にオークの植林を増やしているのでしょうか?

特にカーボン・オフセット(炭素相殺)を行う人々にとっては興味深いことでしょうが、オークを植えることには問題があります。ロンドンでは今、オークの行列毛虫という新たな危険があります。この毛虫は2007年から8年にかけてオランダから輸入されたものだ。被害を受けた樹木は、キューから2マイル離れた開発用地に植えられました。蛾の幼虫は集団で生活し、有毒な毛を持っています。その毛が家畜や人間に触れると、大きな炎症を引き起こすのです。この蛾はわずか10年でロンドンからかなり遠くまで広がっています。すでにM25のすぐ外側にまで広がっており、今ではハンプシャーやバークシャーにも進出しています。人々はオークを植えたがりません。毛虫の数を抑制するために、葉に散布するなどの世話が必要になるからです。

種の多様性はどのくらい重要ですか?

どのコレクションも多様であればあるほど、誰にとっても良いことです。私たちは常に10年、20年先を見据えています。(プラタナスの木を破壊する)カンカ病はイタリアや中央ヨーロッパにも広がっています。もしここでそれが発生したら、ロンドンプレーンの木(スズカケノキ)は失われてしまうでしょう。ロンドンプレーンのないロンドンを想像してみてください。視界からなくなるだけでなく、熱の上昇もあります…しかし、今のところ、私たちはこのクモの巣を管理し、植えて、育てて、持続可能なコレクションを維持していると言えるでしょう。

シャーロット・スターランド(Charlotte Sterland)はパフォーマーで、(岩や木に)登る人。彼女は、世界中のウールから製品を作る持続可能な衣類とアクセサリーのデザイン会社 Shear Rockを共同設立。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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