方法はある:今こそ海のプラスチックに取り組む意志が必要

政府が行動するならば — 海洋汚染をきれいにするのに国際法がどのように役立つか、オリバー・ティックルが詳細を語る

翻訳:浅野 綾子

海のプラスチックごみについてのニュースが報道されない日はほとんどありません。しかも、ニュースは大抵が悪いもの。ここに書くのもそんな新しいニュースですが、海に漂うプラスチックの微粒子が薄い藻の膜を作り上げてしまうというものです。その薄い膜は硫化ジメチルのガスを放出。生憎、多くの小魚はこのガスに鋭く反応し、強く引きつけられてしまいます。というのも、このガスは小魚にとって食べ物があるというシグナルだからです。

 小魚は、プラスチックと一緒に、プラスチック微粒子に自らを密着させてしまう残留性有機毒素(ポリ塩化ビフェニルのような)も食べるのです。こうしてプラスチック微粒子と毒素は食物連鎖に入り、最終的には上位捕食者の体内に入ります。ついでながら、その部門には人間も入っています。自業自得というわけです。

 もちろん、漁網、飲料ボトルやビニール袋のような大きいかたまりも大変な害を引き起こします。海鳥や亀、くじらやイルカ、その他の多様な素晴らしい生き物の息をつまらせ窒息死させたり、消化管を詰まらせたりするのです。そして、絶え間ない波や風、日光に晒されて細かな粒になります。簡単に言えば、海のプラスチックは生態系に影響する毒物、世界の海の破壊主なのです。このようなことを規制する法律があるべきでしょう! ええ、たまたまあるのです。1つどころか、いくつかの法律が。

 私自身の海のプラスチックを巡る旅は、海のプラスチック汚染 (MPP) に終止符を打つ新しい国際法のアイデアから始まりました。例えて言うならモントリオール議定書のようなものです。この議定書は、クロロフルオロカーボン (CFC) のようなオゾン層を破壊する化学物質を上手く規制しています。署名国に法的拘束力のある義務を課すだけでなく、専門的知識の共有や必要な国に資金の提供もしています。ただ、まずはどのようなものであれ、既にある国際海商・環境法を調べることはもっともなことでした。

 すぐに答えは探し出せました。海洋法に関する国際連合条約、これは1994年に効力が発生していますが、この条約によって締約国はすでに「あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制し」しかも、「自国の管轄又は管理の下における活動が他の国及びその環境に対し汚染による損害を生じさせないように行われることを確実にすること」を求められています。 

 ロンドン条約1996年議定書は、廃棄物の海洋投棄を規制していますが、締約国に対して、「汚染のすべての発生源から海洋環境を保護し保全」することを既に求めています。ここで言う汚染とは、「人の活動による海洋への廃棄物その他の物の直接的又は間接的な導入であって、生物資源及び海洋生態系に対する危害のような有害な結果をもたらす、又はもたらすおそれのあるもの」と定義されています。

 バーゼル条約、これは1992年に効力が発生しています。この条約は、「有害廃棄物その他の廃棄物の発生及び処理から生ずることがある悪影響から人の健康及び環境を厳重な規制によって保護」しようと、廃棄物の国境を越えた移動を規制しています。風、波や潮の流れによって国から国へ移動した廃棄物でさえも要件に含まれるよう草稿されています。海のプラスチック汚染は、バーゼル議定書の直接の適用範囲には入りませんが、海のプラスチック汚染が適用範囲に含まれるようにするには、直接の適用がないプラスチックごみを、国内法の立法において「有害」なものと規定すればよいだけです。

 慣習法も適用できます。これはコモンローの国際法版で、国家間で積み重ねられた行為規範を反映します。慣習法における規範の1つには、国から国へ危害を越境させることの禁止があります。ある国の陸地から他国の海岸へ移動する海のプラスチック汚染は、その明白な例です。慣習法のもう1つの要素は、公共信託法理であることです。政府は、ただ現在と未来の市民の利益のためだけに、共有地(公海のような)と自然資源を、人類に受け継がれてきた共有財産として管理する受託者であるとされています。

 それから、多くの地域条約があります。例えば、アフリカには、バーゼル条約のアフリカ版であるバマコ条約があります。この条約は1998年に効力が発生。その目的はプラスチック海洋汚染を防ぐ目的と一致します。ヨーロッパには、1998年に効力が発生した北東大西洋の海洋環境保護に関する条約(OSPAR 条約)があります。ヨーロッパの15の国々とEUが締約国となり、「(仮訳)汚染を防止し除去するために可能な全ての手段」を執り、「(仮訳)人の健康を守り、海洋生態系を保全すべく、人間の活動による悪影響から沿岸地域を保護する」ことを締約国に要求しています。議論の余地は全くないでしょう!

 このような具合で、海のプラスチック汚染の排出に責任のある国々を厳しく取り締まるために必要な全ての国際法は既にあるようにも思えます。でも、1つ重要な要素が抜けているのです。強制力です。悲しいことに、海には、国際法遵守に責任を持って違反を捜査し、違反者に対して法的措置を講じる、警察も検察も存在しないのです。規定された手続きの下、法的手段を執るかどうかは条約に署名したそれぞれの国家次第なのです。

 忘れてはならないことは、法的措置が執られ得る裁判所はあるということです。国際司法裁判所、国際海洋裁判所、それに個々の条約に定められている特別裁判所です。今までのところ、海のプラスチック汚染の件で、他国を法的手段に訴えた国はありません。おそらくは、海のプラスチック汚染の主な被害者は小さな国々であること、それに多額な費用がかかることも理由かもしれません。それに、近隣国相手に法的手段を執ることは和やかな関係を破壊することになりかねません。一見して明白な法律とは裏腹に、前例の無いことが結果についての不安を生み出してもいます。さらには、この件に関して完全に責任がない国はほとんどないことも、法的手段に訴えた国がないことの理由になり得るでしょう。

 だからと言って、増えていく海のプラスチック汚染を巡る国際社会の大きな懸念を考慮すれば、この状況を変えることができないと言うわけではありません。既存の法律を適用して、プラスチック汚染を最も多く排出する国々に責任を課し、行動を起こさせることは当然可能です。以下、どのように行うのかをお話しましょう。

 まず、海のプラスチック汚染が漁業や観光、環境の質にもたらしている害の法的救済を求める意思のある国家を、数に拘らず見つけなければなりません。そうした国々に損害を小さくする責任を負わせるのです。モルディブやフィジー、セントルシア、バヌアツのような小さな島国から始めるのが良いでしょう。これらの国々は、海のプラスチック汚染の害を度々被っています。1991年、自国の海面上昇への脆弱性から、気候変動に行動を起こすキャンペーンをしようと、これらの国々は小島嶼国連合(AOSIS) を結成しました。今、連合の使命は「持続可能な開発 (sustainable development) 」へとさらに及んでおり、海のプラスチック汚染の問題を含めることは容易にできるでしょう。

 このような国々は、国土は小さいですが数多くあります。加盟国とオブザーバー合わせて44カ国。AOSISは、全ての発展途上国の28パーセント、国連加盟国の全加盟国の20パーセントを占めます。数におけるこの強みは、1つの国だけであったなら持ったであろう孤立して行動する恐れに囚われることなく、力を合わせて行動することを可能にするのではないでしょうか。全ての国々に共通の価値となる判例が出るよう、他の国々を法的手段に訴える費用の分担もできるようにするかもしれません。海のプラスチック汚染を巡る国際社会の不安が増加していることを考えれば、講じ得る法的手段を支える多額の資金を集めることもできるはずです。NGOや基金、クラウンドファンディングのプラットフォームを通して一般市民からも集める資金です。

 AOSISの多くの国が、行動する意思を既に表明しています。今年ニューヨークで行われた国連海洋会議では、加盟国が、プラスチック使用の規制と安全な処分を確実にする十数個の公約をしました。生物分解性のないプラスチック袋やボトル、包装を徐々に減らしていくこと(モルディブ)から、発泡スチロールのお持ち帰り箱やスプーン、フォーク、ナイフ、お皿、お椀にコップなどのプラスチック食器の使用禁止(セイシェル)、発生源におけるゴミの分別収集(サモア)、「ゼロウェイスト国家 (zero waste nation) 」になる表明(シンガポール)に至るまであります。

 これは良いスタートです。ただ、法的救済を求める前に、将来の訴訟当事者になると見込まれる国家は、海へ排出するプラスチックごみについて、自国の責任がさらに小さくなるよう行動すべきです。幸運なことに、このことは既存の公約に一致しており、国際コミュニティーが進んで支援すべき事柄です。既存の公約には、1995年の「Washington Declaration on Protection of the Marine Environment from Land-based Activities(陸上に起因する活動からの海洋環境保護に関するワシントン宣言)」もあります。これは、国連関係機関や世界銀行、地域の開発銀行を含む開発資金提供者に対して、その資金プロジェクトが、地域構造が海洋環境の保護に適うものになるよう支援することを確実にするよう求めています。

 法的手段を検討している国家は、海のプラスチックの生態系に及ぼす害や経済損失、その他の有害な影響についての説得的な証拠を集める必要があるでしょう。それができれば、その訴えを疑いの余地のないものにできるのです。また、被害をもたらす海のプラスチック汚染の多くが、法的手段の相手方の国から来たことを証明できなければなりません。例えば、被害を受けた海岸線からごみを集め、ごみの出所となる国を明らかにできるようラベルの記載を調査するのです。これにより、法的な責任を明らかにすることができます。このことは、科学者や弁護士、NGO、さらには広く一般市民社会が、海のプラスチック汚染の問題を時間と専門的知識、金銭をかけて支えるに当たって、重要な役割を果たします。

 この問題は、すぐに、または簡単に解決できるものではなく、これだけやれば大丈夫ということもありません。でも、成し遂げる価値は十分にあります。自国のごみで海の環境を汚すことを放置している国々に対して、プラスチックで汚染されている国々が法的措置を執ることは、法的措置の警告のみであっても、違反者に自らの在り方を正すよう考えを改めさせることに強力な効果をもたらすことでしょう。プラスチック海洋汚染の問題の規模と緊急性は一刻の猶予も許しません。精力的に、効果的に、この執り得る手段を推し進めるべきです。私たちの海、そのかけがえのない生態系は、それができるかどうかにかかっているのですから。

オリバー・ティッケルは「Resurgence & Ecologist」の定期寄稿者。Artists Project Earth より出版された新しい報告書「International Law and Marine Plastic Pollution: Holding Offenders Accountable(仮題:国際法と海洋プラスチック汚染:法を犯す者に責任を課すこと)」の筆者。www.apeuk.org/opli/

There's a Way: Now We Need the Will • Oliver Tickell

International Law can tackle plastic pollution


305: Nov/Dec 2017

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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