再開発でロサンゼルス川に新たな波紋

過去に治水工事がなされたロサンゼルス川の将来計画が賛否両論を引き起こしている。都市地理学者であるブラッドレイ・ギャレットが川の全長を歩く。

翻訳:浅野 綾子

約82kmのロサンゼルス川を下る3日間のトレッキングのはじまり。ベル川 (Bell Creek) とアローヨ・カラバサス (Arroyo Calabasas) の合流地点でフェンスをよじ上った時、あたりはまだ暗いままでした。私たちの計画は、カリフォルニア州最大都市の真っただ中を流れるコンクリートで固められたロサンゼルス川を歩くこと。カノガパーク (Canoga Park) にある川の源流から、川の流れとなった雨水が水門から海へと流れ出るロングビーチ (Long Beach) までです。メンバーは、インフラマニアを自認する4人。地理学者が2人と歴史学者が1人、エンジニアが1人です。みな冒険にあこがれを抱いていただけでなく、この川岸のそばで営まれるコミュニティ、それもこの川岸に細長くのびる地域で営まれるコミュニティを感じたいという思いにあふれていました。川を歩くことが安全なのか、ところどころでは合法なのかさえわかりませんでしたが、この川の流れ全体をたどろうと固く心に決めていたのです。

 はじめの29kmを歩いてから、「立ち入り禁止」のサインを全く気にとめないようになりました。水しぶきをアーチ状にあげながら走り去っていく、薪のようなものを満載した行き先のわからない行政のトラック。立ち入りを取り締まる人も、トラックを監視する人も、誰もいない様子だったのです。堂々としたコンクリート作りの産業地区にかこまれ、川岸をざっくりと照らすナトリウム灯が両側に立ちならぶ広々とした川を縦断しながら、バーバンク (Burbank) の裏手より、ラスベガスに向かう途中の砂漠を通る川に沿って歩いた方がよいのではとの思いが私たちの脳裏をよぎりました。目につくのは、ヤシの木まがいの携帯電話の基地局など、ちぐはぐな風景。どこにいるのかわからないような奇妙な雰囲気が一層強まっていたのです。

 ロサンゼルス川の周辺には、長くトングヴァ族 (Tongva) の人々が居住していました。その様子は、スペインの探検家によって、1769年の遠征日誌にいきいきと描かれています。川にはいつも2つの顔がありました。水源としての顔、そして川が決壊する時には大いなる危険をもたらすものとしての顔。ともに生活に決定的な影響をおよぼしてきました。1938年、ロサンゼルスの「新興都市」時代の終わり、1秒間に約2,800立米もの水がおしよせた洪水で100人以上の人が亡くなりました。この洪水をうけ、アメリカ陸軍工兵隊は5億5,650万リットルのコンクリートを用いて、この川を、人々をして洪水予防の建造物と思わせるような形に造り変えました。今日、この川はロサンゼルス市のメディア映像の中心です。グリース、チャイナタウン、ターミネーターを思い出してください。でも、他の主要都市で川が市民に親しまれているようには、ロサンゼルス川は市民から親しまれていないのです。

 ですが、この状況は変わりつつあります。ロサンゼルス市長のエリック・ガルセッティ (Eric Garcetti) は、川の環境美化の再活性化に14億ドルをかけると公約し、著名な建築家のフランク・ゲーリーと企画契約を交わしました。ガルセッティは、公園に適した930ヘクタールの新たな土地がこの大都市に加わって、ロサンゼルス川は重要な公共スペースとして再デザインされると主張しています。

 一方で、ロサンゼルス川の生態系再生をめざして数十年にわたり最前線で活動してきた「Friends of LA River (FOLAR)」という名の小さな市民グループは、洪水予防や水の確保をレクリエーションや野生生物のよりも優先するという声明をうけて、ゲーリーの企画に懸念を表しています。また、多くの市民がプロジェクトの裏ででっち上げられた役員会に神経をとがらせています。役員会には不動産開発業者や資産専門の弁護士がおり、川の修復は、2028年のオリンピックにむけた緑化と華やぎに姿を隠したジェントリフィケーション [都市の居住地域を再開発等で高級化すること。賃料が高騰する等により、もとの住人が転出を余儀なくされる問題が生じている] の策略かもしれないという不安の声を上げているのです。

 フロッグタウン (Frogtown) に向かうグレンデール・ナロウズ (Glendale Narrows) ほど懸念される状況が目に見える場所はありません。ここは市長により「レクリエーションゾーン」と宣言された3kmほどの流域。この付近で水深1mの家庭雑排水の流れにのってカヤックをする市長の姿をオンラインで見ることができます。フロッグスポット (The Frog Spot) というローカルビジネスが、天然の岩と木の生えた小さな島々を漕いでまわれるカヤック教室を運営しています。島々の間に泳ぐのはちぎれたゴミ袋。まるで世界滅亡後のクリスマスツリーの玉飾りのような様相です。2日目に通りかかって気づいたのは、そのうちの1つの島。島には飾りつけがほどこされていて、ミラーボールの下につるされた手書きの目印によれば、海のギャング・海賊パーティー (Pirate Thug Party) とのこと。茶目っ気があり、少々猥雑で、すぐに消えてなくなってしまうこうした場所は、ゲーリーの川の「ビション」によってほぼ根こそぎなくなるでしょう。

 ここで私たちは、ロブとジェンという2人の地元アーティストに出会いました。彼らは、ボーティー・パーセル (Bowtie Parcel) という7.3ヘクタールの元産業地区にある屋外展示スペースをガイドしてくれました。歩きながら、ロブとジェンは、多くの友人や近隣の人々が再開発の圧力を感じているのだと語りました。「The Nation」の最近の記事によれば、フロッグタウンのリバーフロントにある半分以上の不動産は、ここ3年の間に所有者が変わったといいます。売価は2倍以上になり、賃借料も高騰しているとのこと。

 後日、カリスマ的建造物のシックス・ストリート・ヴァイアダクト (Sixth Street Viaduct) の下の浅瀬で行われていた写真撮影に偶然出くわしました。トレッキングのほとんどの行程において縦断仲間に出会うことはありませんでしたが、ここで仲間に出会ったのです。彼らは川の我が家使いを極めていて、警察も、彼らが金網をくぐり抜けたり、湿地に出るのに地下通路をドライブしたりしても長らく気にもとめなくなっていました。数週間後には、伝統的なLAスタイルの築84年の橋が、重機で砕かれ、ゴミ捨て場へと引きずられていきました。ロサンゼルスといえばすぐに目に浮かぶ主要な建造物の1つでした。これから空港ターミナルのコンコースのような新しい橋をつくろうというのです。

 歴史的に、ロサンゼルス川流域は低収入のロサンゼルス市民が家を購入でき、屋外スペースを持つことも夢ではない場所としてありつづけてきました。コンプトン (Compton) 地区の付近では、ありあわせの合板で作った馬小屋の立つ庭先のならびを通りました。聞こえてきたのはたくさんの子馬のいななき。川自体を住まいにしている人たちにも出会いました。昨年の時点で、ロサンゼルスにおける路上住まいの市民数はほぼ60,000人。こうした市民の中には、川の両土手にまたがって家をつくったり、下水放流台の上に家をつくっていた人々もいたのです。私たちが出会った人の中には、自分自身と所持品をケーブルを編みこんだもので橋桁にくくりつけていた人もいました。川岸のコミュニティの中には、あまりに広域におよんだたために独自の政治機構がつくられ、長が選ばれているコミュニティもあります。ガルセッティは、いったい何人のこうしたコミュニティの長と意見交換の場をもったのでしょうか。ガルセッティが行ってきたことは認められています。完全に合法なのです。不動産開発業者のモートン・ラ・クレッツ (Morton La Kretz) から、ロサンゼルス川にかける新しい橋の建設費用にと5百万ドルの寄付がありました。橋の建設予定地の隣には、ラ・クレッツが60区画の分譲地をつくるために再区分を終えようと画策している地域が広がっているわけです。

 アメリカ陸軍工兵隊が、自身が75年前に流したコンクリートをはがす工事を担うなら、川の再開発は間違いなく続けられ、滅多におこらない洪水予防の機能もおそらくは向上するでしょう。川水の動力利用や水資源の再利用という、旱ばつ傾向にあるロサンゼルス市の機能の向上さえ可能かもしれません。見方によっては、河口のロングビーチに住む50万人の人々の需要をまかなうのに十分かもしれません。でも、ほとんどのロサンゼルス市民がこの川の方向を指し示せず、川を愛する多くの市民の立ち退きが起きていることを考えるのなら、未来のロサンゼルス川がその名にふさわしい公共スペースとしてどのように一般市民の役に立てるのか、すぐに答えは出せません。多くの人々がロサンゼルス川を歩けば、この川のもつ可能性を理解してもらうことができるかもしれません。湿った傷痕のようなこの奇妙な川が、乾ききった大都市ロサンゼルスを1つにつなぐ可能性を。

ブラッドレイ・ギャレットは、アメリカの社会地理学者。現在シドニー大学で教鞭をふるう。書著は、「Explore Everything: Place-hacking the City(仮題:どこだって探検しよう — この都市を『場所ハッキング』する)」「Global Undergrounds: Exploring Cities Within(仮題:世界の地下 — 都市の地下内部を探る)」

Redevelopment Makes New Waves On The River • Bradley Garrett

Navigating the politics and potential of the Los Angeles River

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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