スロー・スモール・シンプル

辻信一 (Keibo Oiwa) は日本でのスモール・イズ・ビューティフル運動を代表する一 人。サティシュ・クマールが彼のその情熱とプロジェクトについてインタビュー。􏱍􏱎􏱏􏱫􏱬􏰏􏱭􏱮􏱯

翻訳: 齋藤 未由来

サティシュ:あなたは一般的に大学で行われる教え方とは、かなり異 なる方法で教鞭をとっているようですが... 

辻:そうですね。僕は以前から生徒を海外へ連れて行っているのです が、この旅がただの郊外実習であって欲しくはないと思っています。 ですので、生徒たちが何か非常に変わった体験ができるように心がけ ています。以前は先住民族を訪ねるために生徒を北米、南米へと連れ て行っていました。それも、通常は人里離れた場所を訪ねます。最近 では、生徒をブータンに連れて行きました。僕たちはホテルに泊まる 代わりに、一般のお客さんもいる農家に滞在させてもらいます。ある 年はゼミ生たちとイギリスに渡り、シューマッハー・カレッジに一週 間滞在しました。そのことについて本も出版しています。 

 僕は文化人類学者なので、これまで人類学的研究とエコロジーの考 え方を結びつけることを試みてきました。それから思考、行動、そし てただ在る、ということの統合にも取り組んできました。例えば、僕 のゼミ生は田んぼに行き田植え、収穫、脱穀、調理、そして出来た料 理を共に分かち合うというところまで全てやらなくてはいけない。生徒がこれらひとつでも参加できない場合、単位がもらえないという訳 です。 

 幸い、僕が教えている明治学院大学国際学部の横浜キャンパスは、 市によって管理されている素晴らしい自然公園が隣接しています。これは本当にお宝のようなものです。僕たちはここに田んぼを持ってい ます。ここへ行き、働いて自然から学びます。僕たちは自然を観察し、 ここで瞑想もします。 

 これはなかなか一般的なことではありませんが、生徒たちがこの公 園で過ごす時間は実際他のどの授業と比較しても価値あるものでしょ う。僕の講義と比較してもです!

ナマケモノ倶楽部(The Sloth Club)も開始されましたね...

僕自身は日本国外に長く住んでいたことがあり、アメリカとカナダを 行ったり来たりしながら、仕事をしつつ学んでいました。僕は日系カ ナダ人の科学者で環境問題活動家として名高く影響力の強い、デヴィッ ド・スズキに非常に強い影響を受けています。彼は純粋に科学者だけとしてのキャリアには進まず、先住民族の代弁者として、そして同時 に教師としての自分の役割を見出します。僕も自分のアカデミックな 興味とアクティビズムを融合させることが出来るのではないか、と考 え始めたのです。 

 この頃、僕はゼミ生とエクアドルへ郊外実習に向かいました。そこ で世界最高木(63メートル超)を含むマングローブの生態系の保護に 関わることになります。そして、この古来の森でミツユビナマケモノ という、大変素晴らしくも変わった美しい生き物にも出会いました。 この森は開発のために伐採が行われていたのですが、この時他の動 物や鳥たちは逃げることが出来ても、ナマケモノには出来ない。あま りにもゆっくりとしているからです。ですから、木が切り倒されると 共に地面に落とされてしまうのです。僕と友人はこのナマケモノのこ とを本当に気の毒に思いました。それを踏まえ、開始時には「森を守 ろう、ナマケモノを守ろう」と掲げていたのです。 

 このナマケモノには、何かとても特別なところがありました。最初 にハッとしたのは彼らの顔にいつも穏やかに浮かんでいるその笑顔。 僕の活動家の友人などナマケモノのことを森の菩薩、なんて呼んでい ました。僕は彼らに強い興味を引かれ、中南米を旅してはこの動物や その研究者に会いに行くようになったのです。そのうちに、だんだん と素晴らしいことを発見し始めました。ひとつはナマケモノというの はとてもゆっくりとしていますが、その理由としては筋肉がそれ程な いことがあり、何故それがないのかというと彼らはベジタリアンで新 陳代謝が非常に遅く、食べたものを7日から8日かけると消化出来る のです。そして、それにより体が非常に軽いため、一番の安全地帯で ある木のてっぺんあたりの細い枝にもぶら下がることが出来ます。このように彼らのスローな面は生き残るための戦略なのです。彼らは素 早さを身につけるよりもスローになることで事実、進化を果たしたの です。 

 彼らは木の上から排便することはなく毎回木の根元まで降りてき て、通常はその小さな尾で地面か腐葉土に小さな穴を掘ります。そし て、糞をした後は枯葉でそこを覆います。どうして彼らは猿がするよ うに、木の上から排泄することをしないのか?何人かの科学者は、 ナマケモノは葉を食べて得た栄養を可能な限り、自分たちの命を支 えてくれている木にお返ししているのだといいます。ナマケモノは森 の農夫のようなもの。彼らは自分たちの住処である生態系を守って いるのです。 

 僕はその時ナマケモノが、僕たちに生き方を教えてくれているよ うに感じました。友人と僕はこのナマケモノの問題を解決しようと、 大変積極的に活動していました。しかし、やがて僕たちは問題という ものは自分自身の生き方によって引き起こされている、ということに 気が付いたのです。 

 ナマケモノから僕たちが受け取ったメッセージは「あなた自身が変 化になりなさい。」というものでした。そして、僕と生徒たち、そし て友人たちとでナマケモノ倶楽部を作りました。僕たちのゴールはエ クアドルやその他の地域の森を保護すること、そして同時に自分たち のライフスタイルを変えることでした。当時は1998年、活動家が自身 の生き方に着目するということは、まだ珍しいことでした。何人かの 人にこんな風に言われました。「あなたがおっしゃるのはつまり、企 業やシステムを批判するのではなく私たち自身を責めるべきだ、とい うことですか?」と。 

 「そうではありません。」と僕は答えました。「僕が言いたかった のは大企業を非難するだけでは十分ではない、ということなのです。 私たち自身が変わらなければいけない。」その後すぐに、僕たちはマ イ箸と水筒をどこにでも持ち歩く、一風変わった活動家として知られ るようになりました。日本では使い捨ての割り箸は広く普及しています。一人当たり年間平均使用量は200本にも上ります。人口1億2500万 人に対し200倍とすると、大変な数の木材だということがお分かりで しょう?もう一点、おかしな事としてこの国には500万台以上もの自 動販売機が設置されています。年間を通して24時間これを稼働させた 場合、丸々ひとつの原子炉が必要になります。さらに直接的、間接的 に係わらず、この自動販売機の缶やペットボトル飲料に関連して必要 となるすべてのエネルギーを追加すると、原子力発電炉の数3、4基に まで相当します。このシステムは一体誰によって支えられているのか? それは、私たちです。私たちが自動販売機の使用を止めていれば、福 島(の原発)は必要なかったかもしれない。

それでは、これ以外のプロジェクトについてもお聞きしたいのですが、 DVDの制作を行ってらっしゃいますね。これに関してはどのような考えがあってのことなのですか?

ナマケモノ倶楽部のモットーのひとつとしてアクティビズム、学び、 ビジネス、芸術、そしてスピリチュアリティの融合があります。言い 換えれば、ホリスティックである、ということです。そこで僕たちは 社会変革の手段となる、芸術的で教育的、なおかつ商業的に存立可能 なドキュメンタリー映画を制作することにしました。そのシリーズで は、アジアのビジョナリーたちと、現代の私たちの挑戦に必要なビジョ ナリーたちの深遠なる知恵に焦点を当て「アジアの英知シリーズ (Asian Visions)」と呼んでいます。 

 このシリーズの最初に出したのは、あなたとの「サティシュ・クマー ルの今、ここにある未来 with 辻信一(Soil, Soul, Society)」でした。 その成功を受けて、第2弾では日本人の自然農家の第一人者である川 口由一を取り上げました。 

 第3弾はファン・デグォンです。彼は韓国の思想家であり活動家で、1980年代の中頃に身に覚えのないスパイ容疑で当時の軍事政権に拘束 され、拷問を受けたのち13年間投獄されていました。獄中生活の最 中、彼は壊れてしまった自分の精神と身体を刑務所の運動場に生えて いた薬草を使って癒すことに成功しました。その後は刑務所内に100 種類以上もの野草が生える庭を作るまでに至ったのです。 

 この大変に並外れた経験を経て、彼は独自のエコロジーを形成して いきました。彼に唯一許されたのが家族に手紙を書くということだっ たのですが、彼はこれに見事な野草の絵を描き添えて送っていたので す。表面上は、彼の手紙には野草のことしか書かれていないように見 えますが、実際には彼独自のエコロジーや平和に対する哲学が暗に織 り込まれているのです。特赦で釈放されたのち、彼が書いた絵手紙は 本として出版され、韓国ではミリオンセラーとなりました。彼は僕の ヒーローのひとりです。 

 第4弾DVDは皆さんよくご存知のヴァンダナ・シヴァですね。 

 第5弾はつい先日リリースされたばかりなのですが、タイのスラッ ク・シワラックとプラチャー・フタヌワットに焦点を当てました。二人は仏教哲学者として名高く、東南アジアにおける社会・環境運動の 第一人者です。彼らはエルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー が提唱した仏教経済学の今日を代表する人物であり、国際的運動であ るティク・ナット・ハンが唱えたエンゲージド・ブディズム運動の指 導者でもあります。 

 第6弾の編集もじきに着手する予定で、次はブータンを取り上げま した。僕はもうすでに15、6回訪れています。15年前、僕はブータン の政策である国民総幸福量(GNH)について初めて耳にしました。 これは非常に急進的な世界の捉え方です。世界の99%の国々が社会の GNP向上を目指す中、ブータン第4代国王は1970年代初頭にはすでに こう発言しています。「私はGNPにはそれほど関心がない。実のとこ ろ、ブータンのGNPを知らない」と。そして、「我々にとって大事な ものはGNH、国民総幸福量(Gross National Happiness)だろう」と付 け加えました。これは素晴らしい言葉のもじり方でしたが、これによ り彼は世界中に大いなる警告を投げかけたのでした。 

 僕はブータンに強い興味が沸きました。そして、現地に赴く機会を つかみツアーオペレーターであるペマ・ギャルポと出会ったのです。 彼は、僕が環境活動家でブータンに興味を持っているということを知 り、ボランティアでガイドをしてくれました。ペマと僕は2週間一緒 に旅をし、魂の兄弟ともいうべき繋がりを持つに至りました。僕がブー タンへの視察ツアーを開始してから、彼は僕の生徒たちにこのビジネスをしている理由が「自分の村にある寺院の屋根の修繕費を稼ぐため」 だと教えてくれたのです。聞けば彼の村は「人里離れた国の南東地区 にあり車で4日、その後徒歩で2日かかる」のだと言います。そして、 「一緒に行こう。行けばGNHの本当の意味がわかるから」と言うの です。僕はそのことについて考え始め、それから数年かかって行くこ とを決意しました。それが6、7年前のことです。そこは別世界でし た。僕は世界中たくさんのへき地へ足を運びましたが、ここはまるで 別格だったのです。僕はこの村にすっかり恋をして、これまで4度訪 ねました。今度の第6弾目では、この村が話の中心になる予定です。 "

この他に進行中のプロジェクトは何ですか?

僕はずっと日本にシューマッハー・カレッジを作りたいと思っていま した。沢山の人が興味を持ってもいたけれど、ハードルが高過ぎる様 に思えました。2011年に津波の大災害があり福島の原発事故に繋が り、その時に今すぐシューマッハー・カレッジを作るのではなく、もっ とつつましやかな、後々大きなものを創り上げるための最初の一歩に なるべきものなら作れるのではないか、と考え始めました。その様にして、「ゆっくり小学校(Slow Small School)」が出来たのです。 

 もちろん、この学校の中心にはキッチンがなければいけません。僕たちは場所を探し始めました。幸運にも、日本での100年を越えるフ リースクール運動の中心である自由学園から申し出がありました。この学校の建物は創立者である羽仁もと子の教育的哲学から発想を得た、 フランク・ロイド・ライトの設計によるものです。 

 その様にしてゆっくり小学校は始まったのです。25名の様々な世代 の大人が第1期生として2014年6月から2015年2月まで、月に一度終日 共に過ごしました。第2期はそのすぐ後に、生徒を入れ替え開始しま した。朝の瞑想に始まり、講義、ボディワーク、アート作品制作、ディ スカッションを行います。ディスカッションは「脱・経済学」、支配 的な経済的思考の学びほぐし(unlearning)に焦点を当てています。 ランチタイムには大きなキッチンで全員一緒に調理し、食事を共にし ます。通常のクラスに加え、僕たちは折に触れてイベントやアクティ ビティを催します。昨年の秋には田舎での2日間の校外授業もあり、 春はサティシュ・クマールの日本TLC(Tender Loving Care)ツアーの ホストも務めました。このようなことからコミュニティが生まれるの を見るのは、本当に素晴らしいことでした。彼らの卒業の日、僕は生 徒たちにこう言いました。「さあ、今度は学び成長した新たなコミュ ニティの、あなた方ひとりひとりが『ゆっくり小学校』になる番です よ」と。

ナマケモノ倶楽部、アジアの活動家のDVD制作、ゆっくり小学校の開校、あなたの大学での教育活動をもって、日本の為にどのようなビジョンを作られてきたと思いますか?

僕は「スロー・スモール・シンプル」という言葉を使っています。こ の3つの言葉は、真の日本文化の本質とエコロジカルな叡智を含んで います。日本人はクラフトマンシップ(職人技)で有名です。工芸の 美しさのみならず、その小ささでも知られています。職人は簡単さと スローであることの体現である、細部と民芸運動での表現に拘ったのです。僕はこの日本の本来的な理念の復活を望んでいます。僕のすべ ての活動はこのビジョンに捧げているのです。 

 現代社会では誰かひとりが早く動くことを求められると、他の人も 皆早く動かなければならないと感じてしまいます。そしてさらに最初 の人は、もっと早く動かなくてはならなくなる。我々は実はお互いの 時間を奪い合っているのです。なんといっても、時間というのは私た ちの人生に唯一属するものです。それどころか、人生というのは時間 そのものです。僕たちはこの競争社会の中で成功を得る為、僕らが唯 一所有するもの、時間を犠牲にしてきた訳です。ですから、僕が「ス ローであることは素晴らしい」と言う時、僕らは自分自身の時間を取 り戻さなくてはならない、時間というものを受け入れ、楽しもうとい うことを意味しているのです。 

 それが出来て初めて「人生は素晴らしい」と言うことが出来ると思 います。この智慧は日本文化や伝統の中に、古来よりあったものです。 おそらくこれは世界中で同じでしょう。インド、中国、ギリシャ哲学 の古代の智慧にしても、皆時間のことを語っています。自分の人生を 犠牲にし、物質的な富を得るために時間がなくなってしまうなんて、 なんて馬鹿げたことでしょう!これは古来より私たちが知っていたそ のような智慧をもう一度取り入れよう、と言っているのに過ぎないの です。 

 僕は環境危機に直面すると、圧倒されるように感じてしまいます。 しかし、このような智慧を僕たちが持っているということ、また僕た ちの中に未だ息づいているということに希望があります。僕たちはそ れを思い出し、取り戻すだけなのです。再考案する必要などないので す。いいえ、それは常にここにあったもので、今もここに息づくもの なのです。スロー運動とは私たちにただ、それを思い出させる為にあ るのです。

更に詳しい情報は、www.sloth.gr.jpをご覧ください。

Slow, Small and Simple • Satish Kumar

Keibo Oiwa in conversation with Satish Kumar


292: Sep/Oct 2015 

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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