ビッグデータは意味がない ー 災厄を呼ぶ以外には

世界は農業的危機に陥っているとヴァンダナ・シヴァは語る

翻訳:馬場 汐梨

私たちの食べ物と農業には2つの全く違う未来があります。

 ひとつは終末に向かいます。死の惑星です。毒薬と化学的なモノカルチャーがはびこります。種と化学薬品の債務のために農家たちは自殺します。子どもたちは食べ物がなくて死んでいきます。人々は食品として売られている栄養のない有毒な商品によって蔓延する慢性疾患で死んでいきます。そして気候の大混乱が地球上の私たちの生活環境を取り壊していきます。

 もうひとつの未来は生物多様性、土壌と水の生命力を高め、小さい農場やみんなにとって多様で、健康的で、フレッシュでエコな食べ物の生命力を高めることによって、地球の生命力を高めることになります。

 ひとつめの道は工業的な道で、第二次世界大戦中に人々を殺す化学薬品を作るために生まれた毒薬カルテルによって拓かれます。戦後、戦争の化学薬品は農薬として再配されました ー 殺虫剤や肥料です。実際に、私たちは毒薬がないと食べ物を得ることができないと言われていました。

 空中窒素を固定するために高い温度で化学燃料を燃やして爆弾を作る製造過程は、のちに化学肥料の製造に使われました。そのスローガンはこうでした。もう二度と食糧不足は起こらない、何故なら私たちは今や「空気からパン」を作ることができるのだから。

 人工肥料は食糧生産を増やし土地が持っている農業の生態学的な制約を全て取り払うのだという行き過ぎた主張がありました。今日明らかになっているところではむしろ、人工肥料は土壌の豊かさを損ない、食糧生産量を減らし、砂漠化や水不足、気候変動をもたらしているのです。

 1990年代には私たちは同じ毒薬カルテルから提供されるGMO(遺伝子組み換えの作物やその他の有機体)なしには飢えてしまうと言われていました。GMOは環境が持っている様々な制約を全て取り払い、砂漠や有害廃棄物の中で食糧生産ができるという行き過ぎた主張が聞かれました。しかし今日においてまだ、GMOの応用で広く使われているものは2つしかありません。除草剤耐性と作物にBt 毒素を使用したことです。前者は雑草をコントロールできると言われていました。しかしその代わりに、スーパー雑草を生み出しました。Bt作物は害虫をコントロールすると言われていました。代わりに、新しい害虫やスーパー害虫を生み出す一方で、インドだけでなく世界中でBtコットンの導入によって何千もの農家を自殺に追い込んでいます。

 今私たちは農業界から、そう遠くない将来「ビッグデータ」が私たちを食べさせてくれると言われています。モンサントはそれを、ビッグデータと人工知能をベースにした「デジタル農業」と呼んでいます。「農家なしの農業」について語られ始めています。これが理由で、農家の危機やインドの農家の自殺が流行していることについて政府から何の反応もないのです。政府は盲目的に終末へのハイウェイで次の段階を拓いているところです。

 最近私がハンブルクでのG20の会議に出席した際、現代生活のあらゆる面でデジタル化を進めることが進化の次のステップとして認識されようとしていることが明らかになりました。世界がこの地球の生きた知性や最も小さな生命体に気付きはじめた時代に、人工知能やビッグデータの名の下に誤った機械的なパラダイムを拡大しようという試みがあるのです。

 モンサントとアトムワイズのパートナーシップから、どの分子がモンサントに次の殺虫剤を与えるかを予測することができます。これは害虫の持続可能なコントロールのための知恵ではなく、次の毒薬に賭けるかという偏狭な話なのです。生命をデジタルのカジノに変えてしまうものです。

 これはまるで沈みゆくタイタニック号のデッキでポーカーをするようなものです。

 2013年にモンサントは気候データの最大手のThe Climate Corporationを10億米ドルで買収しました。2014年には土壌データ最大手のソルアム (Solum, Inc.) を買収しました。

 The Climate Corporationは農家たちに、私たちの足元、土の中に気候変動への解決策があるという知識を与えてはくれません。そうではなく、データを売るのです。ソルアムは農家たちがバクテリアや菌類、ミミズなどの肥沃な土壌の食物網を理解する手助けをするわけではありません。代わりに、データを売るのです。

 しかしデータは知識ではありません。農家たちがより依存してしまう別の商品に過ぎないのです。実際、農家たちはモンサントに理性を委ねるよう言われています。

 これは種や植物、土壌組織、私たちの腸内細菌、私たちの農民、私たちの先祖たちの知恵を無視した終末の未来への次のステップです。

 しかし、この記事の最初に述べたように、私たちはこの盲目の道を進むのではなく違う未来への種を蒔くことができます。

 世界中で小規模農家や園芸家たちは既に自分たちの土や種を守り育て、アグロエコロジーを行いながら、この農業を実践しています。彼らは地域に健康的で栄養たっぷりの食べ物をもたらしながら、地球の生命力を高めています。彼らはこうして、フードデモクラシー、つまり企業のコントロールや毒薬、フードマイレージやプラスチックなしに農家と消費者の手による食システムの種を蒔いているのです。地球と全人類を養う食システムです。

 小さい農家は非生産的だからなくすべきだとか、私たちの食の未来を毒薬カルテルや偵察ドローン、スパイウェアに委ねるべきだという主張とは反対に、小さい農家は農業に使われる資源全体の30%の使用で70%の食物を提供しています。工業的な農業は70%の資源を使用して40%の温室効果ガスを生み出し、たった30%の食物しか生産していません。この商品化ベースの農業は土壌破壊の75%、水資源の破壊の75%の原因となり、湖や川や海を汚し、93%の作物の多様性を絶滅させました。それはまた栄養のない有害な作物を生み出すことで健康危機をも作り出しています。このシステムの中で10億人の人々が恒久的に飢えており、20億人の人々が食に関連した病気に苦しんでいます。有機農業は大気中に収まるに相応しくない余分な二酸化炭素を取り込み、光合成によって収まるに相応しい土中に戻します。また二酸化炭素は土の保水力を向上させ、干ばつや洪水その他の異常気象の時の回復を早めています。

 私たちは、工業的でグローバル化した食システムの中心的な役割を認識せずに気候変動とその現実的な結果について語ることはできません。その食システムは森林伐採や大規模畜産経営の家畜、プラスチックやアルミニウムの包装、長距離輸送、食品廃棄物によって40%以上もの温室効果ガスを排出しています。私たちは生物多様性、生きた種と生きた土、最小限のフードマイレージでプラスチック包装なしのローカルな食システムに基づいた、小規模でエコな農業なしには気候変動を解決することはできません。

 何を食べるか、食べるものをどう育てるか、そしてどう分配するかが、人類が生き残るのか、それとも自分たちと他の種を絶滅に追いやるかを決定するでしょう。

ヴァンダナ・シヴァ (Vandana Shiva) はナヴダニアの理事です。

Article - Big Data Doesn't Add Up - Except to Disaster • Vandana Shiva

The world is in an agricultural crisis

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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