野生を信じ、 野生を育てる

私たちは崩壊に背を向け、自分たちの未来を取り戻さなければならないと

ヴァンダナ・シヴァは言います。


ガンガー、その波はスワルガの流れに注ぎ、

彼女は雪の王の娘。

シヴァ、その手は、

落ちかけた彼女を支える。

地球だけでは耐えることができない

大気の向こうから放り出される激流に。

ラーマーヤナ第1巻エピソード43:バギラス


ガンジス河の水源へのトレッキングは私の子どもの頃の最も良い思い出です。ガンゴートリーは3,100メートルの高さにあって、そこには母なるガンジス川を聖なる川として、また女神として奉るお寺があります。ガンガー寺から少し歩いたところに、バギラス・シーラという石があります。バギラス王がその上で瞑想し、ガンジス川を地球にもたらしたと考えられています。その聖堂は、毎年4月の最終週か5月の1週目に訪れるアクシャヤ・トゥリティヤの日にオープンしています。この日に、農家は新しい種を蒔く準備をします。そしてガンジス寺は光のお祭りのディーワーリーの日に閉鎖され、女神ガンガーの聖堂はハリドワール、プラヤグ、そしてバラナシへと移っていきます。

 ガンジス川が流れ落ちる物語はエコロジカルな物語です。上記の聖歌はガンジスのような大きな川の流れから連想される水理学的な問題のお話です。ヒマラヤの著名な生態学者のH.C.レイガーは、その聖歌の物質的な合理性を次の言葉で表現しました。:「その聖文の中には、山の水が全て裸の大地に降り注いだら、地球はその痛みに耐えきれないという気付きがあります…私たちは迫り来る水の力をせきとめるという有名な身体機能をシヴァの髪に見出しています…それが山の植生になっています」ガンジスは死後の平和を与えてくれるだけの存在ではないのです。命の繁栄の源でもあります。インドの人々にとってのエネルギー、つまり生態の、宇宙の、経済の、社会の、そして文化のエネルギーの源なのです。

 しかし今日支配的になっているパラダイムでは、「エネルギー」とは、地球から掘り出され、何千マイルという距離を運ばれ、ネオンサインを光らせる電気やSUVを走らせるための燃料に姿を変える石油や石炭を意味します。エネルギーが他の意味や他の形態を持っていることを覚えておくとよいでしょう。シャクティ、つまり生命を生み出す宇宙の力から、私たちの生活を動力になる太陽、降り注ぐ雨や洪水、津波やあるいはちょろちょろ流れてやがてガンゴートリーから轟音とともに流れて私たちのところにやってきて生命の大地を豊かにしてくれる水、そして雲を動かし気候を作る空気と風に至るまでです。エネルギーは石油や石炭やガスだけではありません。エネルギーとは遍く広がる生命の要素なのです。

 エネルギーについてのパラダイムが広がれば広がるほど、人類としての選択肢が広がります。化石燃料は私たちの想像やポテンシャル、創造性、そして野生性を化石にしてきました。私たちは自分たちや種、この惑星にとって人生を高めてくれる道を選ぶために、この化石化から自由にならなければなりません。

 機械化のパラダイムは私たちから自由と創造性を奪いました。生命のエネルギーは化石燃料にとってかわられました。自然が作り出してくれる富は人々がお金で作り出したものにとってかわられ、市民やコミュニティの自由は私たちの生活のあらゆる面、例えば私たちの考えや食べるもの、作られる住居といった面で資本のルールを押し付けてくる法人国家の威圧的な力にとってかわられてきました。

 この生命を脅かすグローバリゼーションと気候変動の中、ポスト化石燃料経済への変化を起こすために私たちの隠れたエネルギーを解き放つ必要があります。そのためには、民主主義を立て直す必要があります。再生可能エネルギーの経済は自由で自立的な市民とコミュニティの再生可能エネルギーによってしか作られません。石油からの移行は単なる技術の移行ではありません。それは政治的な移行でもあり、そこでは私たちは受け身であることをやめ、自分たちに変化を起こす能力やエネルギー、創造性があるということを認識することで、活発な変化の主体となるのです。

 生命は細胞からガイアに至るまで、コミュニティから国家に至るまでの森羅万象の自立的なエネルギーに基づいています。私たちは生けるシステムとして化学的なエネルギーの流れや変化のネットワークでもあります。つまり生命はエネルギー、化石燃料のエネルギーではなく生きているエネルギーです。

 こういった種類のやり直し、こういった種類の自立的なエネルギーは私の野生性の価値観に訴えかけてくるでしょうか?デカルトの二元論や開拓主義の世界観は野生を人間のための自由、耕作地を自然界の自由とみなす考え方を遺しました。一方で、これは開拓され居住された領域から、バイソンから原住民に至るまで、野生とされていたものすべてを根絶やしにすることに繋がりました。そして私たちを養ってくれる土の組織を殺す化学肥料やいい昆虫(私たちの食物の3分の1の生産を手助けしてくれる蜂や蝶を含む)を殺す殺虫剤、私たちや他の生き物の食物である植物を殺す除草剤など、生物多様性や生きているものすべてを駆逐する暴力的な技術に基づいた工業型農業を生み出しました。

 他方でそれは、野生保護のパラダイムやその土地や生物多様性を守ってきた人々を追い出すことを前提とした国立公園を作りだしました。インドでは人々と公園の争いがたくさん起きています。これは、この人間味のない野生を建設することにつながる、非人間的な野生という人工的な遺物のためです。過去40年間、私はこの野生を開拓することによる人工的な分裂に橋を渡そうとしてきました。

 生命の自立性とは、私にとっては、野生でいることの定義です。私たちは種を守り保存していますが、それはそれらの自立性の中に野生性があるからです。私たちは賢明な種と賢明な農民の間の共創共進化として参加型育種に取り組んできました。私たちがナヴダーニャ(9つの種)として、あるいはバラナジャ(12個の種)として生物多様性を育てるとき、異なる種同士だけではなく植物と土の組織であったり、植物と花粉を運ぶ虫であったり、殺虫剤や遺伝子組換え作物を使わずとも害虫をコントロールしてくれる昆虫のコミュニティの自立的な協働という観点で野生を育てているのです。

 野生を信じることで、私たちは暴力的な技術の使用や野生を殺すことによって「世界を養う」という、暴力的な意図をもって生産された食物よりもたくさんの食物を育てることができます。私たちの土壌には、合成された窒素肥料を使用した農場の350%もの窒素があります。近くの森の中の6倍もの花粉を運ぶ虫がいます。

 野生を育てることで作られた食物はより健康的でもあります。有毒な殺虫剤や遺伝子組換え作物は外の野生を殺します。また同様に、私たちの健康のために必要な腸の微生物群の野生性を殺してしまいます。人間はバクテリアや菌類、藻類や植物の代謝のようにシキミ酸経路を持っていないので、そういった殺虫剤や作物は人間には安全であると主張されています。しかし私たちの身体にある遺伝子情報の90%はヒト特有のものではなくバクテリア的なものなのです。

 人体の60兆という細胞のうち6,000億だけがヒト特有のものです。その他はバクテリアなのです。そしてバクテリアはシキミ酸経路を持っています。私たちの腸のバクテリアは殺虫剤によって殺され、腸疾患から自閉症やアルツハイマーの発生の増加のような神経の問題まで、深刻な病気の流行につながります。土と腸や脳はひとつの相関する生物群なのです。一部への暴力は全体の連関システムへの暴力を起こします。

 米国疾病管理予防センターのデータによると、アメリカではなんらかの形で自閉症を持って生まれてくる子どもの割合が急速に高まっています。賢明な種は、歪められて操作された科学によって自らの未来を破壊したりしません。アインシュタインはこのように述べたと言われています。「無限のものは二つしかない。一つは宇宙で、もう一つは人間の愚かさです…そして宇宙については私にはよくわかりません」

 私は宇宙の無限の創発エネルギーについて語るとき、ガイアの自立的なエネルギーや人間の働く、生み出す、組織する、そして変化する創作エネルギーについて話します。インドや世界中で、この人間のエネルギーは文化によってシャクティと呼ばれるものであれ野生性であれ、世界の自立的なエネルギーを育てる助けをしてきました。

特に、(世界の食物の80%を生産している)女性の創作性、イノベーション、そして意思決定力は世界の生物多様性に大きく寄与しています。人間が育ててきた8万の植物種のほとんどが、女性の自立的で生き生きとしたエネルギーから生み出されたものです。つまり、野生性を再定義するならば、同時に人間を自然とともに豊かさを共創する存在として再定義する必要があります。私たちの生きるエネルギーが地球のそれと連携するとき、私たちは野生を頼りそして共創しているのです。

 ガンゴートリーを越えるとガウムクがあります。それは牛の鼻のような形をした氷河で、ガンジス川を創っているものです。24kmの長さで幅は6〜8kmあり、1年で5mという速さで縮小しています。ガンガー平野の人々のライフラインであるガンジス川の縮小する氷河は、インドの未来に重大な結果を招きます。私たちはエコでシェアできる、連帯できて思いやりに満ちた再生可能エネルギーを作って増やし、あらゆるレベルで欠乏、例えば仕事の欠乏、幸せの欠乏、自由の欠乏、また未来の欠乏さえも生み出す貪欲で破壊的なエネルギーに対抗しなければなりません。

 私たちは破壊、崩壊、絶滅のプロセスを変わらず続けることも、システムの変化を起こすため、あるいは私たちの種としての、地球の家族の一部としての未来を取り戻すために私たちの創造的で野生的なエネルギーを解き放つこともできます。私たちは絶滅に向けて夢遊病を続けることもできるし、この惑星と私たち自身の潜在力を目覚めさせることもできるのです。

ヴァンダナ・シヴァ (Vandana Shiva) はナヴダニアの理事です。本稿は「Wildness: Relations of People and Place」Gavin Van Horn と John Hausdoerffer 編集、The University of Chicago Press 出版の許可の下再掲された編集記事です。© 2017 by The University of Chicago. All rights reserved。リサージェンス & エコロジストの読者は、本書を £18(ペーパーバック価格の 20% 割引)で購入いただけます。電話 01243 843291 またはオンラインtinyurl.com/ucp-wildness(promotion code 44483)。 


Trusting and Cultivating the Wild • Vandana Shiva

We must reclaim our future

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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