地域経済:局面を変える

ヘレナ・ノーバーグ=ホッジが経済のローカリゼーションの美しさについて語る

翻訳:馬場 汐梨

「何かがおかしいところでは必ず、何かが大きすぎるのだ。」―レオポルド・コール

私たちのほとんどは一般論を拒みます。現実世界は複雑で混乱しており、矛盾に満ちていることを認識しているからです。私たちは当然、万能な解決策には懐疑的で、「私は答えを知っている!」などと堂々と意見している人々には警戒します。だから私は、人々が直面している危機に対して単一的な常套手段で解決しようとする世界を旅する時に困難な立場に置かれてきたのです。

 過去40年間にわたって、私は経済のローカリゼーションを支持してきました。私に言わせれば、現代世界の主要な問題のほとんど、たとえば気候変動や制御されていない移民問題、種の絶滅からテロまで、経済のグローバル化によって引き起こされ、少なくとも悪化させられてきたのです。経済活動を分散化すること、つまり生産と消費の距離を近づけることは一挙に事態を好転させます。

 ローカリゼーションの美しさというのは、それが多様性を表しほめたたえるところにあります。異なる環境によく反応し、違う文化を尊重します。生命を高め、活力を与え、民主的でエコです。有機的で、土地に根差していて、母なる地球の移り変わりに調和しています。上から強いられた一つの巨大な解決策ではなく、下から湧き出てくる数えきれない小さな解決策です。

 私がローカリゼーションを熱心に支持しているのはヒマラヤ地域、「小さなチベット」のラダックやブータンでの経験が大きいです。そこで私は自然をベースにした伝統文化への経済発展のすさまじい影響をこの目で見ました。私たちの経済システムがどのように力を中央に集中させ、人工的に不足させた教育の機会や仕事を巡る激しい競争を生み出し、また一方では小さな子供たちの精神に深く入り込み、愛や受け入れることを必要とする普遍的な気持ちを消費欲に換えているかが分かりました。短期間に鬱病や自殺、暴力による衝突、自然破壊に導く致命的な組み合わせであることが明白となったのです。 現代経済はグローバリゼーションの体現であることは明らかです。グローバル化した市場は多様性を生態的にも文化的にも破壊します。そして善意の人々が不注意にも環境を破壊するだけでなく最終的には自分たちの生命さえ脅かす経済システムを支えてしまっていることに気づきました。進歩や教育、個人主義や民主主義に関するアイデアは経済成長と経済発展を無意識に支えてきました。理想主義や善意が、心無い無駄遣い、消費主義や失業、不安に基づくグローバルシステムに仕えることになってしまっていたのです。

 こんな風にならなくてもよかったのです。より健全な経済の種は70年代の環境運動によって既に植えられていたのです。『成長の限界』やレイチェルカーソンやE.F.シューマッハーが書いた将来性のある著作にインスピレーションを受けたこの運動の中心は経済規模の重要性への理解でした。これらの著作は、経済を根本的に変えること、つまり再生可能なエネルギーに基づいた、人間の身丈に合っていて分散した発展を望む声を刺激しました。これらの声は、私たちは教育や科学にもっとホリスティックで学際的なアプローチが必要だという認識と一体となりました。当時の環境運動家たちは、必要なのは断片的な改革ではなく構造的でシステム的な変化だということもとてもはっきりとわかっていました。

 しかし環境運動家たちが人間スケールの経済を訴えても、経済規模は成長し続けました。第二次世界大戦の後、善意の政治家たちは新たな戦争や不況を回避するためには世界経済を統合することが一番だという考えを支持しました。この考え方では、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)や国際通貨基金(IMF)、世界銀行は貿易や経済成長を促進し、第三世界の「発展」の為に設立されたといいます。「自由貿易」協定によって貿易と金融の規制緩和によって推し進められた、国際的なモノカルチャーが地球を包み込み始めました。

 環境問題がなくなりませんでしたが、何十年もの間巨大企業やメディアがこぞって規制緩和と「自由貿易」を推し進め、政府の政策だけではなく人々の意見や識者の議論までも形づくることができるような巨額の富と権力を得ました。システムを変えることより、個々人が変わることに焦点がありました。洗練された広告キャンペーンが南北世界両方でのさらなる消費を促進しても、人間が持って生まれた欲望と浪費が環境破壊の原因だと言われていました。そして個々人が問題なのであれば、個々人が解決策でもあると。つまり、私たちが電球を取り換え、温度調節器を取り外し、運転を控えれば地球を守れるというのです。企業が環境保護団体に投資しても、それらの多くは経済を変えること、つまり分散したり小規模にすることやローカリゼーションを促進することは避けてきました。「持続可能な発展」― 平常業務の婉曲表現です ― は新しい決まり文句となり、エコな消費主義や倫理的な投資、炭素貿易のような「市場による解決策」は広く受け入れられました。その間、緩和された貿易協定のおかげで世界の消費と輸出は指数的に増えていました。それは温室効果ガスの排出や資源の枯渇、北の失業と南の貧困を伴いました。

 私たちがこのような状況に陥ってしまったのは、悪意ではなく主に無知によると私は思います。草の根から権力の回廊に至るまで理解不足が広がっています。実際には大規模な経済活動が狭い専門知識を必要とするような構造的な陰謀があり、全体図が見える人はほとんどいません。その全体図は、世界経済の規模を拡大していくことが、社会的、経済的そして生態的な大破壊を導くことを示しているのでしょう。

 規制緩和の絶対的な力はまだ続いています。そのもっとも最近でおそらくもっともダメージの大きいものは、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と大西洋横断貿易投資パートナーシップ(TTIP)という形で現れています。どちらも企業に、人権や環境を守るものも含めて国家の法を訴えることができるという文言を含んでいます。それらは将来的な利益を失うことになるかもしれません。しかしここ数年、破壊的な国際経済を支えるこれらの協定への抵抗は明確に台頭しています。

 同時に、進行している経済の不安定さと不公正さは経済を根本的に変える必要を人々に気づかせています。過去20年間、実は世界にはローカリゼーション運動が驚くべきほど増えているのです。地域の食べ物はほぼ主流になり、町は電力供給を分散させました。地域のビジネスを支えることが市民の責任だと考えるところも増えてきました。ウォルマートからジャンクフードのコングロマリットのフリートレー、国際銀行のHSBCまで、多国籍企業が考える「地域の」特性と考えるものを強調して利用しようとするほど、ローカリゼーション運動は人気になりました。

 新興のローカリゼーション運動によって作られた進歩は心強いですが、本物のシステムの変化に至るまでにはまだ長い道のりが待っています。異なる文化を、一つの大きくて堕落させるモノカルチャーに融合しながら、経済規模は大きくなり続けています。ローカリゼーションへの道とは共に政策レベルでこのシステムと戦うことであり、多数の草の根のプロジェクトを創り繁栄させ続けることです。

 ではここからどのように動けばいいでしょうか?トップダウンのグローバリゼーションが続く中、地域の構造をさらに強くするにはどのようなステップが必要でしょうか。リサージェンス誌が擁護してきたような未来、「土、魂と社会」との重要なつながりが認められ尊重されるような未来に向かって、どのように進めばいいでしょうか?

 私の意見では、私たちはもっと広い大局的な視点を身に付けることに焦点を当てる必要があります。最近では、ほとんどの個人や組織はまだ自分たちの倉庫で取り組んでいます。気候の公平性など、いくつかの重要な、問題横断的な協力は出てきましたが、ほとんどの場合気候変動に取り組む人々は貧困や有毒廃棄物、種の絶滅、民族紛争や国際貿易の問題に取り組む人々とは連帯していません。しかし経済はこれらすべてとリンクしています。

 経済規模を根本的に小さくするためには、企業が経済的、政治的な権力を集めることを可能にした政策に取り組まなけばなりません。貿易協定は社会が国際銀行や多国籍企業の行動や力を制限できるように改定される必要があります。税金や助成金は、安定して意味のある雇用を生み、エコロジカルフットプリントがより少ない地域に根差したビジネスを支持するようにシフトする必要があります。

 政策の変化は生産者と消費者の距離を縮め、私たちは自分の行動が他人や自然界に及ぼす影響をよりはっきりと見えるようになるでしょう。現状のシステムではまるで、自分の腕が長すぎて自分の手が何をしているのかが見えないかのようです。自分が食べている食べ物から電気に至るまですべてのものが何千マイルも離れたところから来ていれば、情報を得て判断することはほとんど不可能に近いです。

 こういったつながりを望む気持ちを募らせている人々が増えていることは間違いありません。スローダウンして自分たちが住んでいる場所とよく付き合うことが重要だと考えているのです。地域の知恵のシステムを再発見し、発展させはじめています。詩人ゲーリー・スナイダーが「自分がいるところからスタートして、すぐそばの場所に即した自然の知恵を身に付けなければならない」と言ったように。

 私たちが自分たちの経済をローカル化するならば、同時に世界的なつながりを強化することが重要です。ローカリゼーションは孤立主義ではありません。逆に、経済活動をローカル化するために必要な政策は国際的な協同が必要で、人間と生態的な幸福を守るために必要な新しい取決めは、国境を越えた協力が必要なのです。草の根でも私たちは今すぐでも、コミュニティ内や地方内や国際的に、何がうまくいって何がうまくいかないのかの情報を共有する必要があります。

 何に賛成し何に反対するかが分かっている集団運動というような、下からの大きな圧力があるのにも関わらず、政治のリーダーたちは必要とされている政策の変更をしそうにはありません。彼らは企業のロビイストに包囲され、巨額のキャンペーンを浴びせられ、直面している問題を解決するために世界貿易を増やさなければいけないという考えに貫かれています。しかし草の根の大きな運動は既に動き出しています。遂にそう認識されるに値するのが、ビア・カンペシーナです。それは世界中の2億もの小さな農家を代表していて、現代の最大の環境社会的な運動と言えるでしょう。

 ローカリゼーションは一つの万能な解決策に聞こえるかもしれませんが、実は真逆です。それは経済活動を、混沌とした複雑さをもつ多様な場所や人々に適応させていくプロセスです。私はそれを「経済を持ち帰る」と呼んでいます。その恩恵は私たちが通常経済的と考えているものをはるかに超えます。地球の北と南両方で、地域経済は職の安定や繁栄、収入の平等をもたらしてくれるだけでなく、お互いの精神的、身体的な健康をサポートする強いコミュニティを支えるのに必要な枠組みを与えてくれます。最終的には、ローカリゼーションによって、私たちはお互い、コミュニティ、そして周りの生物界とのつながりを取り戻すことができます。私たちと子孫の安心な未来を望む、心の底からの希望を満たしてくれるのです。

ヘレナ・ノーバーグ=ホッジはLocal Futures (www.localfutures.org) の設立者で理事です。

Article - Local Economies: Tipping the Scale • Helena Norberg-Hodge

The beauty of economic localisation

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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