孤独の発作を解消する歌

歌手イワン・マクレナンが、孤独という病の蔓延に目を向けさせるべく、活動家のジョージ・モンビオットの活動に加わった経緯を語ります。

翻訳:浅野 綾子

 私は、フォーク・ミュージシャンです。何年もの間、幾世紀も遡る物語を伝える伝統歌謡の豊かな鉱脈を掘りあてています。喜び、悲しみ、もがき闘った物語を伝える伝統歌謡の鉱脈を。私にとって、これは私たちの共有文化の一部。私たちが何者なのかという洞察と、過去の世代とのつながりの最も重要な部分を、私たち皆が受け継ぐことができるかもしれない、素晴らしい作品群なのです。

 でも、この伝統に積み重ねて行かなければならないとも思っています。絶えず変わり行く私たちの時代に訴える、新たな歌を書かなければならないと。ですから、ジャーナリストであり著述家、活動家でもあるジョージ・モンビオットが、孤独にもがく私たちの社会を取り上げる、言葉と歌のプロジェクトのコラボレーションというアイデアを持ちかけてきた時、すぐに心引かれたのです。

 全ては2014年に遡り、ジョージが孤独をテーマとしてガーディアンにコラムを書いた時に始まりました。ジョージは、限られた人たちの興味を引くにとどまるだろうと思っていましたが、逆に、記事は瞬く間に広まり、膨大な数の人たちの共感を呼んで、現在まで続く議論の引き金となったのです。

 若い人たちと高齢者両方に広まっている前代未聞レベルの孤独という流行病を示す、イギリスにおける最近の研究に言及して、ジョージは、孤独は私たちの時代を形作る1つの特徴であると主張しました。慈善団体のインディベント・エイジ (Independent Age) によれば、深刻な孤独が50才以上の70万人の男性と100万人以上の女性を悩ましている(24~30才までの人口に至っては、さらに高い割合の人たちが苦しめられている)と言います。その孤独の健康への影響は、1日に15本のタバコを喫煙するのに匹敵するのです。ジョージは、全てこれは、人類史上、今までに無く人口が増え、相互のつながりが増した世界で起こっているのだと、この悲しい皮肉な巡り合わせを前に指摘します。

 この記事の反響の1つとして、ジョージは複数の出版社から、孤独を題材とした本の出版の要望を受けました。部屋の中で3年間、孤独について執筆する姿を想像して、他のやり方の方が良いかもしれないとジョージは判断したのです!

 ジョージが始めて私の音楽に出会ったのは2010年、私がデビュー・アルバム「Rags & Robes」をリリースした時。その頃、私は、何年にも渡ってジョージの執筆を読み、素晴らしいと感じていました。ですから、彼が私の音楽のファンであり、いつか1杯飲みませんかというメールを、晴天の霹靂で彼からもらった時、お互いに有難いと思ったのでした。友情を結び、それに続いてこのコラボレーションをすることが。

 私たちは、取り上げたいと思う、この問題の多くの局面を、全体的に理解することから始めました。個人的経験、孤独にまつわる物語などです。例えば、この問題の発生を助長した、猛威を振るう個人主義のイデオロギー。孤独を乗り越えようとつながる人々やコミュニティの、勇気を与える物語。自然と私たちの関係。自然から切り離された状態の私たち。さらには、人類(共同と互恵に生存のほとんどを依存する、超社会的ほ乳類)として私たちは何者なのかという物語。

 私たちは、歌の感情を揺さぶる力が、言葉の描き出す力と一緒になって、全てを伝えるふさわしい方法となるよう願いました。ジョージの物語のスケッチを解釈し、音楽に置き換えるか、あるいは、書きだそうとする歌詞や音楽へのインスピレーションとして使っていました。この時点で、似たようなことをした経験は私たちどちらにもなく、これがどのような形になるのか、私たちには全く検討もつきませんでした。

 ジョージから最初のスケッチを受け取ったのは、ツアーでスコットランドに滞在していた、2015年も終わりに向かう時。自由に書かれた2ページに亘る詩と、年老いた女性の目から見た社会的孤独の物語に目を通した時、このプロジェクトは成功するだろうと思いました。その晩、メロディーを手探りでギターにはじき、始めの歌詞をつけ始めました。2週間後に、その歌の最初の草稿をジョージに送った時、彼の反応も同じでした。この最初の努力は、「These Four Walls」という歌につながりました。

ここから出るわ もうこれ以上は無理

古びて剥がれた床板の継ぎ目を踏みしめながら 

テレビの音は下げられて

見慣れた顔 でも知り合いは誰もいない

人で溢れる通り だけど私と目を合わす人は誰もいない

私のせいなのか それともこの世がよそよそしくなったのか

歩けば友を求める心の叫びが身に沁みる

聞きたいという衝動 話したいという切実な願い

動きのないこの部屋

動きのないこの部屋

 こうしたスケッチの作業を6ヶ月行った後、スタジオに入って、「Breaking the Spell of Loneliness(仮題:孤独の時間をうちやぶって)」と私たちが呼んだアルバムをレコーディングする準備ができました。昨年の秋にリリース、8つのオリジナル曲から編成され、ジョージのエッセイと歌の解説が同梱されています。ツアーも始め(アルバムの朗読と演奏バージョン)、今も私たちをイギリス中に向かわせています。

 反響は素晴らしいもので、孤独というテーマは、とてつもなく多くの人々を共感させるものだという意を強くさせられています。それぞれのコンサートは、皆で歌って終わります(フォークソングの舞台ではかなり良く見られる光景です!)。その後、知らない誰かに、やあと声をかけてみようと皆に勧めるのです。そうすると、実際に話をして顔見知りになれるよう、地元のパブへと流れていきます。多くが恥ずかしがり屋のリタイヤしたイギリスの市民は、知らない人に話しかけるきっかけさえあれば良いように見えます。それさえあれば、思いがあふれ出るのです。

 こうした夜の終わりの集いで、多くのつながりが生まれる様を見て来ました。連絡先を交換し、地域コミュニティの集まりを始めようと決意した知らない人同士。例えば、1ページにびっしり書いた電話番号を手に、次の週末に会う約束を決めて帰って行く、ほとんど友人もいない町へ新たにやって来た人たち。コミュニティ聖歌隊の立ち上げの数々。まだまだあります。多くの心温まる物語も聞いています。コミュニティ・キッチンからストリート・パーティまで、つながりを再構築しようとするプロジェクトについてです。行政からの支援や資金がもらえないという、本来あってはならない状況ながらも、そうしたプロジェクトのいくつかが成功していると聞いています。人々の活動を耳にして、それぞれのコンサートを地域で起こっていることに光をあてる機会として使いたいと思い、できる時は必ず、このような斬新な新企画に顔を出すようにして来ています。

 私たちが直面している孤独という流行り病は、ほとんど話題に上ったことは無く、ましてや行動が起こされたことも無いと見て、このプロジェクトに乗り出しました。問題がどこへ行くわけでもありませんが、これまでずっと、私たちは見て来たのです。引き裂かれた社会構造を直し始めようと、国中至る所で、膨大な数の素晴らしい活動を、人々が実際にしていることを。人々にエールを!

イワン・マクレナンは歌手、シンガー・ソング・ライターでありギタリスト。「Breaking the Spell of Loneliness」の視聴(数曲)は、 こちら:www.ewanmclennan.co.uk/btsol/ へ。


Songs to Break the Spell • Ewan McLennan

Music that highlights the growing epidemic of loneliness

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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