戦争なき世界に向けた取り組み

なぜ戦争がなくならないのか、どうすれば平和が築けるのか、どのくらい費用がかかるのか、誰にそれができるのか、シーラ・エルワージ(Scilla Elworthy)が考える。 

翻訳:佐藤 靖子

なぜ戦争がなくならないのか

軍事力が国際的な地位の決定因子になりうると考えることはこれまで当然のことでした。他国をけん制・威嚇するための武器や軍隊の所有が国連の体系をも決定し、安全保障理事会の5か国の常任理事国に拒否権を与えてきました。これらの国は、偶然にも世界最大の武器の売人でもあり、核兵器を最初に所有した国々でもありました。

 戦争は相対的に少数の人々を大金持ちにします。2015年の世界の軍事支出は推定1兆6700億ドルで、これは世界の人口1人当たり217ドルに相当します。2014年の世界の武器貿易の合計額は少なくとも945億ドルでした。それに対し、地球上の全ての人にきれいな水と安全な公衆衛生を確保するための費用は年間240億ドルでした。

 その他、人身売買業者、武器の密輸業者、マネーロンダリングや麻薬の密売を行う人々、富を築くのに無法環境を必要とする人々も戦争で繁栄します。

 戦争をやめることは私たちには馴染みのない概念のため、仮定を根本的に転換する必要があります。昔から武器や「防衛手段」は安全保障をもたらすとされ、故に武器をたくさん持てば持つほど、いっそう安全保障が確保されると考えられてきました。


どうすれば平和が築けるのか

人類は今新しい時代に入り、こうした仮定の徹底的な見直しが必要とされています。安全保障上の重大な脅威は、今では武器で対処できない問題 - すなわち、地球温暖化や移民、サイバー攻撃、貧困の格差など - から生じています。

 今や安全保障は、かつて敵であったかもしれない国々と協力する私たちの能力にかかっています。最近の戦争のような破局的な結果を避けるには、武力による暴力を回避することだと私たちは十分に理解しています。私の最新の著書『平和のための事業計画:戦争のない世界を可能にする(The Business Plan for Peace: Making a World Without War Possible)』の全体の手法は、地方レベルから国家、地域、そして世界レベルまで世界中で平和を構築する全体システムのアプローチを構築することです。3つの基本原則には、対話、回避、そして女性を重視することが含まれます。


対話

トップダウンで戦争をやめる試みは失敗することが多いですが、これは恐怖、敵対的な姿勢、競争、強欲など、現行制度でトップに選ばれた大半のリーダーに共通するマインドセットのためです。こうした態度や感情の影響力を克服する最も良い方法は、対話を通じて体系的に信頼を構築することです。

 オックスフォード・プロセス (Oxford Process) はオックスフォード研究グループ (Oxford Research Group) が30年以上かけて開発した実証済みのプログラムで、世界の最も解決が困難ないくつかの紛争に関わる人々の間で高い水準の対話を促進しています。これは、分析ツール、文化的な知識、そして紛争を支える緊張状態と人間関係の両方を理解し管理する人間心理を利用します。

 家族やコミュニティ、その他の対立を変化させるために私たちの誰もがこのツールを習得し利用することができます。


回避

戦争の回避を成功させる鍵は、尊敬、迅速な対応、そして力がどう働くかの理解を培うことです。私が35年間に見てきた全ての調査は、争いの主な原因は屈辱であることを示しています。死刑囚へのインタビューから、これが殺人の最も多い動機であることがわかりました。屈辱に対する最適な対応策は尊敬です。自分が嫌いな人や軽蔑する人に尊敬できる点を見つけるのは難しいことですが、相手も人間であり、あなたが発見し敬意を表することのできる資質を持っています。これは効果があります。これにより対話の可能性が生まれるのです。

 迅速な対応については練習が必要です。これはメディテーション、武道、そして自己への気づき (self-awarenes) を鍛えるあらゆる訓練を通じて習得できます。自己認識 (self-knowledge) が高ければ高いほど、暴力を - 言葉の暴力も物理的な暴力も - より効果的に回避できるでしょう。

 地方で指揮される平和構築の取り組みは回避の技術が優れています。地方の紛争を解決する方法は地元の人々が一番良く分かっていることが多いため、草の根の平和構築者を支援する組織ピース・ダイレクトが設置されました。その結果、ピース・ダイレクトの研究から


暴力の循環を断ち切る

暴力の循環は残虐行為から始まり、恐怖やトラウマを引起こし、その後深い悲しみが生じ、それが怒りになり、仕返しや報復の衝動を引き起こし、残虐行為へとエスカレートしていきます。このように暴力の循環は世代を超え、数百年続くことさえあります。

 この循環は、紛争を転換させる実証済みの方法により断ち切ることができます。これには宗教指導者との協議、調停、真実和解委員会の設立、仲裁人の養成、子ども兵士の解放、トラウマのカウンセリング、法の支配の強化などが含まれます。

 国家レベルでは、政府が平和のための社会基盤を構築することができます。これは南アフリカでネルソン・マンデラが先駆けたプロセスです。国家、地域、市、町、さらには村レベルで平和会議を設立し、それを通じて、尊敬されているコミュニティのリーダーに暴力回避の方法や暴力が勃発した時に自分たちの地域の平和計画を策定することについて教育することができます。これは既にガーナやケニアで模倣されています。


女性による平和構築支援を可能にする

女性は最も効果的かつ粘り強い平和構築者であることがわかっています。けれども平和や紛争の交渉者と政策立案ポストの90%以上が男性であり、これは戦争における女性や子どもの苦しみやトラウマが平和会議のテーブルで考慮されないことを意味します。

 元駐オーストリア米国大使のスワニー・ハント (Swanee Hunt) とWomen Waging Peace Policy Commission(女性が遂行する和平政策委員会)は現地で15件の事例研究を実施し、紛争回避、和平交渉、戦後復興における女性の貢献を記録しました。今では30件以上の紛争から1,000人以上の教育を受けた女性リーダーのネットワークが生まれ、政策立案ポストや和平交渉への彼女たちの受け入れを確保する戦略が生み出されています。


どのくらい費用がかかるのか

私の知る限り、戦争のない世界を構築するのに必要な戦略のコストを見積もる試みはこれまで誰も行っていません。ですから、自著では平和のための事業計画の最初の青写真を展開しました。これは、核兵器の政策決定者と情報に通じた批判的な人々の間で20年にわたり進められている対話、そして15年にわたって支援している、地方で指揮される平和構築の取り組みに基づいています。この計画は以下について説明し見積もりを行います。

地方レベルの紛争回避および平和構築のための4個のシステム:総費用1億5,900万ドル

国家/地域レベルの紛争回避および平和構築のための9個のシステム:総費用6億6,400万ドル

国際レベルの紛争回避および平和構築のための12個のシステム:総費用11億7,800万ドル

 紛争を回避するための、地方・国家・世界のシステムの10年間の総費用はたった20億ドルです。これに対し、私たちが1年間にアイスクリームに費やす金額は590億ドル、P&Gの2012年の広告費用は93億ドル、福島原子炉の廃炉費用は1,050億ドルを上回ります。


誰にそれができるのか

鍵となる戦略は個人的な取り組み-内面の開発-を行うことです。世界をもっと安全な場所にする活動で効果を挙げるつもりならこれは不可欠です。これには特別な理由があります。私たちは恐れや怒りなどの強い感情を持っている時、自分の中で何が起こっているかに気付かないと、そうした感情を他者に投影する傾向があるのです。

 この投影が大きな規模では戦争を引き起こします。リーダーは、自身の内面の怒りを内省しそれに対処しないと、相手の攻撃性に過度に激高します。このように相手を悪者扱いするとあらゆる惨禍が起こり得ます。

 私たちが紛争に対し効果的に取り組むつもりなら、政府であれ草の根であれ、個人レベルのこの種の投影を理解する必要があります。自身の中に深く埋め込まれた信念や感情に向き合うことになるため、この作業は不快で真の勇気を必要とするかもしれません。けれども本当にそれを理解すれば、極めて大きな力になる可能性があります。私たちは10倍効果を挙げられるようになります。

 この作業で明らかになるのは、人類の状況の重大な転換の時代を私たちが生きているということです。この混沌とした時代に私たちが直面している人類が作った問題は、人類が進化する能力を試しています。私たちは今、これまでになく自分たちの意識-そして相手に対応する方法-を新しいレベルに発展させる機会を手にしているのです。


シーラ・エルワージは昨年のリサージェンスの50周年を祝う「地球はひとつ、人類はひとつ、未来はひとつ」会議の講演者の一人。本記事はそのスピーチを元にしたもの。

シーラ・エルワージは、核兵器の政策立案者と批判的な人々の対話を喚起するため1982年にオックスフォード研究グループを設立。また、ノーベル平和賞に3回ノミネート。2003年にピース・ダイレクトを設立し、同年、庭野平和賞を受賞。2013年、Rising Women Rising World(女性の状況が良くなれば世界が良くなる)を共同設立。www.oxfordresearchgroup.org.uk 

www.peacedirect.org

www.risingwomenrisingworld.com


Working for a World Without War • Scilla Elworthy

How we can build peace in a world full of war

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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