ローテク(既存技術)の底力

環境危機対策にあたり、高額な技術的手法に惑わされないようにしようと、ジョンとデイビッド・エアレンフェルドが主張します。

翻訳:斉藤 孝子

「これがニューノーマル【新たな常態】です。」と、カルフォルニア州知事ジェリー・ブラウン氏は、例年ならその時期には5フィート【約1.5m】の雪で覆われるはずのシエラ・ネバダ山脈の、枯草に覆われた頂きに立って述べ、「このニューノーマルに対し、我々は今後どう対処していくべきか聞いて下さい。」と、洪水に襲われた同州のために、類のない強制的な水制限を発令しました。

 気候変動のニューノーマルに対処する挑戦は、慈善事業者や資産家によるものが目立って来ました。マイクロソフトの共同設立者であり、世界大富豪の一人、ビル・ゲイツは、ハイテクのクリーンエネルギー研究に資金供与する新しい共同事業体について発表し、大きく報道されました。

 気候分野にその資産を投じるゲイツの心意気は素晴らしいものです。研究は困難が予想されるとはいえ、いつの日か結果をもたらしてくれるかもしれません。しかし、私たちには、今すぐ使える解決策が早急に必要です。それは既に存在し、驚くほど多くの最善策がローテクの範疇にあります。

 記者、科学者、政府関係者は、日常的に発生している大災害に、ブラウン知事の言葉「ニューノーマル」を使うことが増えています。代表例では、Scientific Americanが、2016年8月全米を襲った悲惨な水害の報道で使っています。同様に、ミヤンマーの夏の収穫期を襲った集中豪雨を始め、カリフォルニアの森林火災、ルイジアナ州の洪水からパキスタンの壊滅的干ばつ、ニュージーランドで高潮を引き起こした海面上昇から世界中の海岸侵食まで、ニューノーマルが頻発です。

 規制のない化石燃料燃焼に関係する気候変動は、気候学者の試算を越え悪化しています。人口と都市化の増加、お粗末な開発、デング熱やジカ熱など感染症の流行、保護すべき生態系の破壊により、悪化の一途です。

 現在のニューノーマル事象の殆どは、すぐに対処できるものではありません。山の雪を増やしたり、ハリケーンのコースを変えたり、海面を下げたりする技術は、今もありませんし、この先も当分ないでしょう。気候変動や資源枯渇によって引き起こされる問題への対処には、核パワーの永遠の可能性のように、ハイテクがその可能性ゆえに抜きん出てきました。

 しかし、たとえテクノロジーがニューノーマルを排除できないとしても、必ずしも災害裡で終わる、ということにはなりません。阻止できない事象でも人への影響を小さくできるなら、災害の数を減らせます。ではどうすれば良いのでしょう?

 災害管理者は、リスク(危険) = ハザード(危険因子) × 脆弱性 という一般的な方程式で、災害リスクを計算します。ハザード、つまりニューノーマルは、私たちが制御できないものです。従って、私たち人間側の脆弱性を減らさねばなりません。それができれば、より過酷なハザードに直面した際のリスクを減らすことができます。

 では、私たちの脆弱性を減らせるものとは何でしょう? 幸いにも方法はいくらでもあるのです。地方レベルで行える「ローテク」がたくさんあります。ここでの「ローテク」とは、比較的安価で、幅広く利用でき、高度に設計された解決法に依存しない減災法のことで、教育、建設的な土地使用、保全域と防御域の区分け、地域社会の適応と準備があります。

 例えば、気候変動による干ばつは、ワシントン州北西、シアトルで起こるかもしれないハザードです。シアトルの人口は増加し続け、当然、水の需要が高いと考えられます。しかし相当な人口増加にもかかわらず、現在の水使用量は1980年代後期をはるかに下回っています。その鍵は、2つのローテク器具、つまり節水シャワーヘッドと節水トイレ、が広く普及したことにあります。どちらも安価で、町から巨大都市まで簡単に普及させられます。1997-2009、千年に一度の大干ばつに襲われたオーストラリアも、同じようなローテクに変えることで対応に役立ちました。

 2014年のエボラ流行時、西アフリカで対策に乗り出した米軍は、3億6千万ドルも費やしましたが、新設された診療所はどこも殆ど用無しで終わりました。現地の情報によると、 流行を実際に止めたのは、共同体ベースでのローコスト、ローテクな方法でした。トラック、メガホン、バケツ、漂白剤を持った公共ボランティアの特別部隊が、情報を広め、公共スペースを消毒し、地方の村民たちに病気の対処法を教えたのです。

 公教育もまた、ハイテク機器の華々しさはありませんが、簡素で平等で、確固たる実績があります。2011年3月に起きた日本での津波の時、釜石市は、15億ドルかけて建設された防波堤で守られていたにもかかわらず、破壊されました。1千人以上が死亡しましたが、そのうち学童は(その日、登校しなかった)5人だけでした。災害時の対応について賢明な全校教育プログラムがあり、子供たちは危機に際し率先的に動く方法をひと通り教わっていたため、学校から直ちに逃げることができたのです。こうして、低学年や障害のある子らも含め3,000人以上の子供が助かりました。子供たちは整然と一つのグループを成し一緒に高台へ避難したのです。日本政府はこれを「釜石の奇跡」と呼びました。

 2013年フィリピン台風ハイエンでは、タクロバン市周辺で数千人が亡くなり、その多くは洪水や高潮によるものでした。この災害は、技術的な問題(高潮を予期できなかった)だけでなく、社会的な問題にも起因しました。というのも、立ち退きを怖れていた住民らが、避難命令に無関心だったのです。翌年の台風ハグピートでは、政府は準備を整えていました。予知能力の向上が図られ、災害についてや台風上陸前の避難の必要性について、市民教育を集中的に行いました。技術と公教育戦略の組み合わせで死者は大幅に減りました。

 もし本当に、もっと過酷な気象や病気がより頻繁に発生するのがニューノーマルなら、ここまで述べた経験から、市民も政府も共に、それに備えるためのニュープリンシプル(新行動原理)を啓発するべきだと分かります。

 まず、災害に対しては、今後出現するハイテクや国レベルの解決策を待つ必要はありません。多くの代替法が既にあるのです。個人、農場、都市に適した実用的な方法で、水やエネルギー消費を大幅に削減し、水害対策になり、市民に防災意識を持たせます。的確な地区分けと土地使用は、嵐と洪水、乾燥と灼熱の干ばつ、とで違いを生みます。エボラの事例で述べたように、ローコストですむ地域の防災教育は、机上の空論ではなく、多くの命を救ってきました。

 共同体ベースの回復力を使えば、脆弱性は大幅に低くなります。農業と執筆業を兼業するジーン・ラグズダン(Gene Logsdon)は、米国でのアーミッシュ【米国へのドイツ系移民の宗教集団】農場の、見事な成功とその永続性を分析しました。彼の指摘によると、近隣農場らが気候や害虫でその単一作物が壊滅的な被害を受け破産しつつあったのに対し、アーミッシュ農場は余裕綽々でした。これは、アーミッシュ共同体全体が、ミルクから牛肉、羊毛、蜂蜜、キルト、果ては農場ツアーまで、幅広い生産と製品販売ができたからです。自力で万が一に備えるアーミッシュにとって、大災害への準備、つまり、世界各地の被災地で何度も成された発見、を伝えてくれるソーシャルネットワークは、その農業手法と同じくらい重要でした。

 共同体回復力の劇的な例に、1943年第二次世界大戦中に、フランクリン・ルーズベルト大統領の妻エレノアに倣って、約2,000万箇所の小さな「ビクトリーガーデン」が、全米野菜の30-40%を生産するという驚異的なことがありました。ローテク高産出です。

 第二に、自然の利用や保護をできるだけするべきです。多くの研究によると、マングローブや、砂丘、堤浜島【海から陸を守るバリアーのような島】など、その土地本来の生態系は、高波や沿岸の水害を効果的且つ経済的に防ぐことができます。それらは莫大な費用がかかる防波堤より安価で、しばしばより効果的です。また自然植生で、灌漑や除草剤を余り使わずにすむ作物、を植えるべきです。その土地本来の自然環境をできるだけ保持すべきです。ニュージャージー州郊外で起きた洪水パターンの解析によれば、広範囲にわたる木々の伐採で引き起こされた洪水は、小さな森や森の回廊【野生生物が移動する森の通り道】を適切に保全していれば、大幅に防げた可能性があります。

 経験が示すところによると、森林火災、特に針葉樹林で、火災が広大に広がるのを防ぐ最善策は、昔ながらの野火を再現することです。注意深く管理すれば、制御された小さな野火は、自然の火事サイクルを保ちながら、巨大火災につながる燃料のかなりを消費します。

 第三に、私たちは犠牲を払う必要があります。多くの人々、特に合衆国の人々、が当たり前になってしまった贅沢な生活レベルは、危険地域ではとりわけ見直される必要があります。アメリカ南西部では、市民はもはや無制限に水を使うことはできません。砂漠地帯では、栽培にキロ当たり1,180リットルもの水を要する桃のように、大量の水が必要な作物用に灌漑するなど、もはや不可能です。ニューノーマルに対応していくには、私たちが本当に必要なものと、自然界が支えられるものとの、現実的な算定が求めらます。

 それでも、避けられない災害はあるでしょう。しかし力を合わせれば、人や自然が生態系に与える損傷の殆どは、修復や予防ができ、或いは生態系自身の回復に任せることができます。ニューノーマルは今ここにあり、水害、火災、干ばつ、しかりです。 しかし気候変動の過酷な現実の予測下にあっても、私たち共同体の豊かな才知と適応力は希望の光です。マニラでもロサンゼルスでも、被災地は共通して、ローテク・安価・効果的な手段で、被害の拡大を抑えています。

 私たちは、安価で効率的でカーボンニュートラル【燃やしても大気中の二酸化炭素の量に影響を与えない】な燃料が発見されることを望んでいます。しかし遠い先の大発見を待つよりも、ニューノーマルが今行動を必要としている、ということを知らしめる慈善活動者や政治家が必要です。災害への脆弱性を減らすために使えるローテク資源はたくさんあり、そして効果的です。それらは強く緊密に繋がった共同体により、更に強力になります。私たちはニューノーマルに対応できます。すでにその方法はあるのです。

ジョン・アーレンフェルドは、NGO、Peace Winds America民軍災害支援計画の元マネージャーで、現在はシアトル消防局のプログラムマネージャー。最新著作に、チャールズ・アーネンサンと共著の「Framework and Partnerships: アジア太平洋における人道支援と災害救援活動」(Peace Wind America、2015)がある。デイビッド・アーレンフェルドは、ニュージャージー州立大学ラトガースの著名な生物学教授で、最新著作に、「Becoming a good ancestors: 自然とコミュニティとテクノロジーの均衡」(Oxford University Press、2009)がある。

The Surprising Power of Low Tech • Jon Ehrenfeld & David Ehrenfeld

We need solutions to the environmental crisis that are affordable and effective

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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