再生ビジネス

新しい、生態学的に持続可能な未来に向けて、私たちはビジネスや産業のあり方をどのように変えていけるでしょうか?

ジャイルズ・ハッチンズは仕事とビジネスに関する自身の新しい調査、フューチャー・フィット (Future Fit) からわかったことを説明します。


翻訳:馬場 汐梨

前世紀のあいだ、慣習的商業や工業は現代の環境的、社会的危機の多くの原因を生み出してきました。主流のビジネスアプローチは世界の仕組みについての不完全な論理から生まれたものです。幸いにも、前向きなビジネスパーソンたちから徐々に疑われてきています。

 アメリカを代表する現代のビジネス思想家であるレイ・アンダーソンはその立ち位置をはっきりと結論付けました。「私たちはこれまでずっと、あるいは今も、現実の不完全な見方、不完全な枠組み、不完全な世界観にとらわれています。そしてそれらが私たちの文化に浸透し、崩壊を伴う生物的な衝突への道に仕向けているのです。ユニリーバの再考経営責任者であるポール・ポールマンは、ビジネスリーダーたちは世界の仕組みについての古い考え方を捨てて、ビジネスと社会と環境の連関が目的志向の企業の核になるような新しいモデル、新しい考え方へと改めなければいけないと言います。

 一般的なビジネスの論理がその階層的な管理に基づく考え方を通じて大多数の労働者を不和にしたり傷つけたりするだけでなく、その近眼的な短期主義、自己中心的で貪欲な目的によって私たちのコミュニティや人智を超えた世界を退化させることについてほとんど疑いはありません。しかしビジネスの中に新しいパラダイムが生まれてきています。それはただの「グリーンウォッシング」のような PR にはとどまりません。新しい世界観を包摂しています。生態系的なビジネスの世界観で、私たちみんなにとって大きな意味を持っています。

 リサージェンス&エコロジスト誌の300号(2017年1/2月号)で、フリッチョフ・カプラが「私たちはみんな一緒にいる」という記事で生態系の生命観のアウトラインを述べていました。この連関システム的生命観が、人間のイノベーションとこの惑星の変化の最も強力な組織力 (ビジネス) に対してどのような意味を持っているかについて、前向きなリーダーたちが理解しつつあることが示されています。このことは私たちにとってだけではなく、私たちのコミュニティやもっと広い地球上の生物にとっていいニュースです。

 私はフリッチョフ・カプラをはじめとしてたくさんの一流の思想家、ときには色々なビジネスリーダーをインタビューしてきました。そして本当に多くのビジネスパーソンが今、組み立てやオペレーションの方法に根本的に異なるアプローチが必要であることにはっきりと気づいています。私はそのことに心を打たれてきました。普段のビジネスが今日の問題の大部分を占めている一方で、変わったビジネスが私たちの未来、私たちみんなが望み、生命との調和に向かう未来を創っていくとても重要な部分になりつつあります。

 例えば、多国籍化学メーカーのCEOにもっとも喫緊の課題は何かと尋ねたとき、その答えは企業の精神を、生態的な思想、それによって社会的・環境的な要因が徹底的に日々の決断をするような思想に転換させる必要があるということでした。プロのサービス会社のCEOにとっては、全員が自分自身の全てを仕事に捧げるような働き方ができるように、そしてそれによって組織がより目的志向で、画期的で、人々ともっとつながるように、仕事の世界を変えていくことでした。

 私たちのビジネスリーダーたちは組織は機械ではなく生命体であり、これらの生命体は社会の生命体や人智を超えた世界と親密に絡み合っているという現実を目の当たりにしつつあります。そしてこれらの組織的な生命体がこの不確実で変わりゆく時代を生き抜くためには、より再生的になることを学ばなければなりません。

 「再生ビジネス」とは何を意味するのでしょうか?

 再生ビジネスは生命の進化の中で貢献し、補充し、そして進化するような方法で経営することで、生命に資する状態を作ることを探っています。それは生命体の論理をコピーしただけのビジネスではなく、生命の進化的発展やリズム、流れの中で調和を探しながら、深くこの生命の論理を体現するようなものです。

 それは命を生きるという戦略的な意思です。私たちの旅を導いてくれる、目的志向のマインドセットです。

 このマインドセットは分離、自我の最大化、恐れや管理に根付いた世界の行き過ぎた機械的な、物質的な見方から、生命の絡み合いの体得へのシフトと特徴付けられます。

 慣習的なビジネスの管理に基づく特徴は仕事の機能をマネジメントの機能と分離し、遠隔から数字でマネジメントする管理と予測の精神に基づくサイロ思考と階層的な官僚主義を生み出します。組織は血みどろの世界で生存を競う自我最大化マシーンとしてとらえられています。この超競争的な還元主義は私たちを見捨てる新ダーウィン的論理を採用しています。

 ビジネスの未来は逆に、生きている、活気のある、レジリエンスのあるシステムの特徴が現れています。

 適応力のあるチームは、ローカルレベルで変化を起こす力、自己組織し地域の中で絶えず変化する環境と調和する力を得ています。リーダーたちはヒエラルキーの中で遠くから管理するのではなく、学び、共創、信頼の花が咲く環境を整えています。意思決定は階層的でなく分散しています。ゴールは組織の目的に沿って遂行することです。そうすることで、健全な利益がついてきます。組織は目的志向のコミュニティで、私たちの広い世界の生命体の中で親密に絡み合っていると見なされます。他のものと独立しているものはありません。すべてのものはつながっているのです。

 この論理は生命が本当はどんな存在かという論理です。そしてそれはシンプルによいビジネスのセンスであるとも言えます。 Global LAMP Indexの出たばかりの調査がこの再生論理をもった組織は機械的な組織より一貫して優れた成果を出していると示しているように。

 この「再生ビジネス」の論理を見つけるため、組織やリーダーシップ開発のレンズを通して生命を見てみましょう。

 生命体がその変わりゆく性質の中で成長するためには、分散と収束の両方を必要とします。

 分散は次のことを通して実現されます。

・組織内や組織間での異なる民族の多様な考え方(生成的ダイアログアプローチを通じてもたらされる)を含むこと。

・自己組織化チームに、煩雑なお役所仕事や管理志向のヒエラルキーから解放して、地域の環境に適した形で力を与えること(自主管理のチーム力学によって促進されるように)。そして、

・参加型で探検するような文化的なマインドセットが養われた、会社や団体のすべての労働者から新しいアイデアが起こってくるよう励ますこと。それはトップダウンではなく、ボトムダウンのモデルです。

 以下はこのアプローチの例です。

 インパクトハブ、社会企業家のコミュニティーセンターの世界的ネットワークは会議の開始と終わりごとに「チェックイン」をします。それは人々が確実な、目的志向のやり方で集中し、共有するためです。

 ある北米のごみ処理会社はステークホルダーの会談をさまざまなステークホルダーたちと行い、顧客や供給者、地域の活動家、先住民族やコミュニティのリーダーたちがみんなその組織の戦略についての生成的な議論に参加していることを保証しています。

 ロンドンのスーパーマーケット、ソーントンさんのバジェンズは何週間かに一度、役職に関わらず全労働者に対して「シェアリング・サークル」を開いて、共感することを通じて問題が働き方の改善につながるようにしています。これによって、利益はあとからついてくると信じて、誰にとっても活気に満ちた職場にしながら、人々と地球を第一とする目的を果たしやすくなっています。

 収束は次のことを通じて実現されます。

・旅の包括的な方向性を導き、運営するという明確で戦略的な意図と、生命を肯定し共鳴を呼ぶ目的の感覚を持つこと。

 日々のミーティング、マネジメントの方法、会社や団体の習慣的な価値観を支持し広めるような、魂に基づいた文化をつくること。

 また、以下がこのアプローチの例です。

 ヨーロッパの金融サービスを行なっているトリオドスは私たちの世界をよくするプロジェクトに投資することで、前向きな、社会的で環境にもよい文化的な変化に、資金を役立てています。トリオドスの投資プロジェクトは全て公共に開かれており、全ての投資の社会的、環境的な実績はオンラインで見ることができます。

 化学企業のパンテオン (Pantheon Enterprises) は、確実に全ての商品を生分解性で毒物性がないようにするために「意識の高い化学」を適用しています。そのアプローチを通じて化学産業をいい方向に変えようとしています。文化として、マネジメントと意思決定の自己組織的なメソッドを生み出すことによって、スタッフがより力をつけるよう奨励しています。

 法律サービスを行うIACPの重役会議では、その会議の全ての決定事項が次世代、つまり私たちの子供たちに与える影響を考慮し、企業や国内のクライアントに対し争議が突破口と変わるように、そのサービスを行なっています。

 そういった新しいビジネスモデルでは、「分散」が活気やクリエイティビティと効率を生み、一方で「収束」は使命に動かされる意図と魂に満ちた組織の目的を生み出します。これらは両方一緒になって、生命体が変化の中で反映するために生き生きとした気持ちや敏活性、確固たる目的をもたらします。組織におけるこの結束は、より広い社会や環境も含めた、ステークホルダーの生態系とどのようにつながっているかを教えてくれます。

 この分散と収束の緊張関係は、価値を創造したり、この緊張関係の中で栄えるために、組織のどのレベルのリーダーも認識しておかなければならないことです。それはアートになるでしょう。常に変化し続ける状況に適応しながら、私たちの組織の中で命が栄えるような状態を作り出すという芸術的なスキルです。

 再生的で、生命を肯定するビジネスはユートピアではありません。それは、生命は本当はどのようなものであるかということです。自己欺瞞的で異常なのは私たちが広く日々行なっていることの方です。私たちがそれぞれ生命と対立する必要があると考えることが誤っているのです。ギリシャ哲学者のゼノンが語ったように、生命の目的は自然と合致して生きるということなのです。

 私たちは、ビジネスの究極の目的は組織の中で、また組織を超えて生命が栄えるようにすることだという現実にはっきりと気付いています。これが起こりつつある、私たちみんなが「我々対彼ら」という批判ゲームに擦り切れることなく、参加することを選べる未来です。

 それは何も「聖人ぶる」ということではなくむしろ、自分の弱点や過ちを受け入れて、学びながら共有しながら進み、人智を超えた世界の中でより人間らしくなるために学ぶ安全な場所をつくり、その過程を楽しむということです。

 目的のある仕事は私たちを活気づけ、高めてくれます。私たちはみんなこのことを心ではわかっているのです。それはロケット科学ではありません。確かにいくらかの矛盾があり、またいくらかのファシリテーションやコーチングを必要とするかもしれません。しかし本質的にこれは私たちが自分自身を大切にし、他人を尊敬し、そして生命を尊重することを学ぶということです。レオナルド・ダ・ヴィンチが述べたと言われているように、見方を学び、すべては他のすべてのものとつながっているということを意識しましょう。

ジャイルズ・ハッチンズの最新刊は「フューチャー・フィット (Future Fit)」(2016年)です。彼はwww.thenatureofbusiness.orgでブログを書き、フューチャー・フィット・リーダーシップ・アカデミー (The Future Fit Leadership Academy) の議長です。


Article - Regenerative Business • Giles Hutchins

Finding ways to change business and industry to create a new, ecologically sustainable future

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

1コメント

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  • 田中晋輔

    2017.05.03 14:25

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