慣行栽培の穀物に逆らって

オリバー・ティッケルが本物の農業多様性の運動家ジョン・レッツに会う 

翻訳: 馬場 汐梨

 「GMO(遺伝子組換え作物)に焦点を当てているだけでは不十分 です。重要なのは、GMOのない土地ですら起きていることです。工 業型農業は大量の水溶性窒素や防腐剤、殺虫剤や除草剤があって初め て機能します。そしてその結果、ミツバチが絶滅しかかっています。 このままではいけません。GMOは、環境を壊し私たちの健康を損な う工業型農業全体のシステムの最後の一捻りというだけです。だから、 私たちはそのことについて文句をいっているだけではいけません。代 替案を提示しなけばいけないのです。」

私はジョン・レッツ - 大学教授、有機農家、考古植物学者、育種 家で農業革命家 - と、今彼が50エーカーの「伝統穀物」を育ててい るバッキンガムシャーの農場で会いました。「伝統穀物」とは、彼が 時間をかけて開発してきた遺伝子的に多様な種がミックスされたもの を表す、彼が15年ほど前に造り出した言葉です。収穫の真っただ中で 時間がなく、ジョンは1日12時間も1970年代の年季が入ったコンバイ ンの上で過ごしています。 しかし彼は私に農場を見せる時間をとってくれました。オックス フォードシャーの農家から彼に譲られ愛情をこめて修理して復活させ た、穀粒ともみ殻、雑草の種を分ける賢くて効率的な1890年代の選別

機。千種類もの小麦、ライ麦、カラス麦と大麦に囲まれた菜園がおよ

そ 1 平方フィート (0.09平米) 単位で試験的な用地に間隔をあけて設け られています。そして農地があります。 ジョンの小麦畑で最初に気が付くのは、地面から2、3フィート (60

- 90cm) の高さを覆う雑草がからまっていることです。そしてその上 に伸びているのが、地面から4、5フィート (120 - 150cm) のところに 種子の頭がついている背の高すぎる小麦です。これで穀物は(ほとん ど)綺麗に収穫でき、雑草と背の高い刈り株は土に還して有機物を育 てられるように残されています。 13 納屋に戻って、ジョンは大袋に手を入れました。「この一握りの穀 物の中には、100エーカーの慣行農法の農場全体の千倍もの遺伝子多 様性があります。」と彼は言います。種バンクや北ヨーロッパ中の農 家からの150種類からなっていて、育てられることで保護されている 遺伝子的に貴重なものに他なりません。「種にとって唯一本当に安全 なのは畑で育てられるということなのです。私は一度も発芽しなかっ た種を種バンクから手に入れたこともあります。種は農家の手にあり 植えられた時だけ安全なのです。」

しかし遺伝子多様性について実際何がそんなに重要なのでしょうか? まず私たちは、20世紀序盤から途方もない「優生学的な遺伝子浄化」 が行われてきたことを理解せねばなりません。一世紀に渡り、穀物は 3つのレベルの多様性を混合させて「在来種」として育てられまし た。どの畑でも半ダースの異なる穀物種があり、それらは200くらい の種類があったでしょう。同様にそれぞれが、かなりの遺伝子多様性 を持っていたでしょう。 19世紀の間、多収量を求めていた農家たちが理想的な農地経営学の 状態下で高い収量をもたらす特定の列だけピックアップし始めました。 そしてさらなる安定性と統一性を求めて、育種家がこれらの列から一 つの種だけを集め、成功した作物としてまとめ、特殊な種類として名 前をつけ売りにだしました。次のステップは第一次世界大戦の少し前 から始まりました。それは、農地経営学的に理想的な質の組み合わせ を求め、これら名前のついた種類同士を交配させることでした。例え ば、大きな種子の頭と茎の短いものを混ぜて、何度も言いますが理想

的な状態下で、収量を増やして「効率的な」農家の利益を増やそうと したのです。 「育種家が成し遂げたのは、畑に元々あった遺伝子多様性の 99.99%を一掃したことです。」とジョンは言います。「生産は急上昇 しましたが、投入量も増えました。それらの穀物は窒素によく反応し ますが、浅く根を張っていて下層土まで届かず水分や栄養分を得るこ とができません。遺伝子的に均一なので虫や菌類に耐えて畑で成長す ることがもはやできず、コンスタントに殺虫剤をまかれなければなり ません。茎が短いということは作物のエネルギーが穀粒に行くという ことです - しかしそれでは、雑草より高く伸びることができないの で度重なる除草剤に依存することになるのです。 「そして大きな問題は気候変動です。環境の変化に適応して常に確 実な量を生産するには、全てが問題なければ最大収量だが洪水や干ば つや新種の虫、菌、ウイルスが現れた時に作物全てがだめになってし まうリスクのある大きな畑より、遺伝子的に多様な作物が必要です。 通常の「厳選の栽培法」よりも私たちが「進化の栽培法」と呼んでいる、環境適応できる作物が必要なのです。不安定な期間にも信用でき る作物を育てるべきです。それはつまり、遺伝子多様性を意味しま す。」 ジョンの人生の中で重大な瞬間は彼がオックスフォード大学の自然 史博物館で働いていた時に訪れました。そこで彼は、百年も千年も前 の様々な考古学現場から見つかった植物の遺物を分析し、種類の特定 と食べ物や食生活、農業システムや気候について推論をあげていまし た。ある日友人の友人が、中世の家から見つかったすすで黒くなった わらでいっぱいの靴箱を彼の元に持ってきました。その家では、元々 のわらぶきは、たる木まで抜け落ちて、付け替えられていました。 「その蓋があけられたとき、私は博物館のトーマス・ヘンリー・ハッ クスリーの古い机に座っていました。そしてそのひと箱には20種類の 小麦が入っており、全ての穂先は異なっていました。これはその草ぶ きの基礎の層のもので、小麦のわらの代わりに水葦を使った新しいス タイルになるまで歴史的に何も変化していなかったのです。そして中 世の邸宅の煙の中で保存されていたこのわらぶきのひと箱は16世紀の 農業についての情報のタイムカプセルのようなものでした。 「当時こういった貴重な考古学的な素材は全英の古い建物から燃や されて捨てられていました。現在私たちはそれにほとんどストップを かけています。この素材を破壊することは違法なのです。また、輸入 された水葦より小麦のわらで作るわらぶきの伝統を守っていく運動に 参加することにもつながりました。しかし、わらぶきには言うまでも なく長いわらが必要なのです。現代の種はすべて短すぎます。またわ らは有機栽培されなければ窒素が多くなりすぎてすぐ腐ってしまうの です。 「そこで私はわらぶきに適したわらのできる古い種類の小麦を探し て育てることを始めました。世界中の農家や種バンクから小麦を集め て混ぜ、栄養の少ないところや色んな土や気候状態でもよく育つ固く て根の深い在来種を作りました。実は、肥料を与えると10フィート (約305cm)にもなってしまうので有機的に育てなければならなかっ たのです!しかしすぐに私たちはこれらの穀物をわらの副産物として 生産し、小麦を焼く実験を始めてそれが本当に栄養価が高く美味しい パンになることがわかったのです。しかしその当時はその市場がなかっ たので、私は始めることにしました。 「良かったことは、焼くためにこの小麦を求めている人がたくさん いることです。職人の焼く伝統とグルテンの豊富に含まれた柔らかい 白いパンとは違うものを求める買い手がいることは幸運です。本物の パンを焼いたり本物のパスタを作るための本物の小麦粉のために開か れている巨大なニッチ市場があります。伝統的な穀物のあらゆる優位 性を訴え続けています。根が深いため、ミネラル分は豊富で、違った 特性のグルテンが含まれています。長く発酵させるなら特に、グルテ ン不耐性を起こしにくくなります。 ジョンの理想的な世界では、農家は遺伝子的に多様な穀物在来種を 育て、その地域の土や小気候で進化させ、その農家や地域の製粉業者 で製粉し、そしてその地域特有のパンを作るパン屋に提供するような 世界です。 慣行農法の農家が1トンの小麦あたり125ポンドを受け取っている現 代のパン生産のシステムに深い変化を起こすでしょう。800グラムの パンは550グラムの小麦を必要とします。つまり、スーパーマーケッ トのパン一斤向けの45ペンスから職人の商品向けの5ポンドまで何に でも売られてパン一斤になる実際の小麦は10から15ペンスの価値しか

ないことを暗示しています。時にかなり広い価格の不均衡が起こるの は、伝統的な小麦やライ麦のような純粋に優れた商品で高い価格を得ようとする農家の意図があるからです。 これらの伝統的な穀物は、そのほとんどが最近は集約農業システム のために慣行農法の穀物の品種を育てている有機農家を大きく押し上 げる力があります。 「もちろん生産のために上土に大量の水溶性の硝酸塩を必要とし、 有機農業システムでは乏しいものなのでうまくいきません。」とジョ ンは言います。「また、現代の小麦のほとんどは菌や菌根と接触する 力を失っています。菌根は小麦の有能な根の成分、つまり水分やミネ ラルを探す力を4倍にしてくれるので、そのことは大災難なのです。 しかし今は特に有機的な状態で育つ伝統穀物を育てることができます し、オーガニックの運動もそのことに目覚めつつあります。」 15 しかし別の問題もあります。1964年の植物種苗法 (Plant Varieties and Seeds Act 1964) は販売のための種は公式に(種の開発者に10万ポンド 以上もかかる手順で)登録されていることを含む厳しい基準をクリア して、「固有で、単一で安定」していることを求めています。法律違 反者は罰金を科されて最大3か月拘置されます。明らかにこれらの伝 統的な穀物は登録もされていなければ、「固有で、単一で安定」して いることができないどころか「特徴もバラバラで常に進化し続けてい る」とジョンは言います。「あるべき姿とちょうど真逆なのです!」 したがって種を売る代わりに、ジョンは法的には所有者であり続け ながらそれを「種使用協定」のもとにレンタルしているのです。「そ の作物を製粉したりモルトにするために育ててもいいですが、種を譲 渡してはいけないのです。Defra(環境・食料・農村地域省)は一度 私のやっていることをやめなければいけないと言ったことがあります が、私が違法なことはしていない、契約に基づいて育てられているし 所有権は移転していないと言いました。すると彼らは私に伝統穀物を 育てられるのは自分の土地でだけだと言いました。法律のどこにそれ が書いてあるのかと聞くと、彼らは尻込みしていました。」 チャールズ皇太子のハイグローブ農園 (Highgrove Estate) で現在ジョ ンの伝統的なライ麦を育てていることも一つの理由でしょう。Defra の種調査者がジョン・レッツ氏を捕まえようとしても(世界的な抗議 が起こりさえするでしょう)、ウェールズ皇太子殿下と争うのは全く 違う話だからです。

オリバー・ティッケル (Oliver Tickell) はリサージェンス・エコロジス ト誌の寄稿者。

リサージェンス & エコロジスト 日本版

リサージェンス誌は、スモール・イズ・ビューティフルを提唱したE.F.シューマッハらが始めた社会変革雑誌で、サティシュ・クマールさんが主幹。英国で創刊50年、世界20カ国に読者4万人。環境運動の第一線で活躍するリーダーたちの、よりよい未来への提言で、考える糧を読者にお届け。また、詩や絵などのアートに溢れているのも特徴。

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